973:その命、尽きるとき(お題:女神) 6/10 ◆AWMsiz.p/TuP
2012/08/12(日) 23:29:57.18 ID:j3F87tL90
ラーメン屋を出ると、僕は駅前にある図書館に向かった。スナック『銀河』のあった場所で起こった事故を調べるためだ。
二十八年前までスナック『銀河』で働いていた柴田めぐみ。それと二十七、八年前の事故。時期が近いことで、なんらかの繋がりがあ
るような気がした。もちろん、偶然の可能性のほうが高い。しかし、どちらにしても調べておいて損はないと思った。ともすれば、事故
に会ったのが、柴田めぐみ本人という可能性もある。
早速、二十八年前の六月二十七日の新聞を確認した。小さな記事もしっかりと目を通していくと、隅のほうに、早くも目当ての住所が
書かれた。鈴木亮介。十六歳。軽傷。運転手も軽傷。これではない。
続いて、七月二十七日を見ていく。なかなか神経に堪える作業だった。できることなら、早く見つかって欲しいのだが。この日の新聞
に事故の記事はなかった。
八月二十七日。同じように見ていく。事故があった。吉田豊。六十二歳。軽傷。こちらは運転手に怪我はなし。これも違った。
次に二十八年前の九月を確認するか、それとも二十七年前の六月にするか迷って、僕は九月の新聞を見た。夏、といっていたが、九月
でも十分に暑いので、勘違いした可能性もある。
新聞を見ていくと、例の場所で事故があった。村上咲子。四十五歳。死亡。これだ、と思った。どうやら僕の心配は杞憂に終わったら
しい。事故にあったのは柴田めぐみではなかった。ついでなので、さらに記事を読み進めてみる。『村上咲子さんは事故に合ったとき、
持っていた鞄の中に新聞紙で包んだ包丁を所持しており、彼女が何らかのトラブルに関わっていた可能性もあるとみて調べを進めている』
とそこにはあった。こちらはこちらで、なにやら物騒な話のようだ。
* * *
花を持った六十代の女性が現れたのは、二十七日の午後五時を少しまわった頃だった。何時に来るかわからないので、朝十時から待って
いた僕は、女性が電信柱に花を手向けた瞬間に、飛び出して握手をしたい衝動に駆られた。
ここからが問題だ、と手を合わせている女性を物陰から眺めた。下手に話しかけて、彼女が柴田めぐみだった場合が最悪だ。探してい
ることは伝えないで欲しいと茂さんにお願いされている。
まずは彼女が柴田めぐみではないことを確認するのが先決だ、という結論に達した。柴田めぐみであれば任務達成。そうでなければ、
偶然を装って話しかける手段を取ればいい。僕は鞄からデジタルカメラを取り出し、フラッシュ機能をオフにして目を瞑っている女性の
顔を斜め前から撮影した。すぐに隠れて様子を伺う。全く気付いていないようだった。
しばらくしゃがんで手を合わせていた女性が、すっと立ち上がった。僕はデジタルカメラを鞄にしまい、彼女の後を追った。
* * *
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