過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)
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974:その命、尽きるとき(お題:女神) 7/10 ◆AWMsiz.p/TuP
2012/08/12(日) 23:30:33.24 ID:j3F87tL90
「彼女を尾行したところ、家の表札に柴田めぐみの名前がありました」
 駄菓子屋の店先で、僕は茂さんに昨日プリントした写真を渡しながらいった。午前十時のおやつ時ということもあり、早くも小麦色の
小さなお得意さんが群がっている。
「写真の女性が柴田めぐみだと思うんですが、どうでしょうか」
「ああ、面影がある。ずいぶんと老けてしまったが間違いない」茂さんが感嘆の声を漏らした。「まさか本当に見つかるとはなあ」
「正直、運がよかったです。それだけのことです」
「恩に着るよ。これ、少ないけれど」
 茂さんはいつもの茶色い短パンのポケットに手を入れると、万札を数枚取り出した。取り出すときにポケットの裏地がちらりと見えた。
白だった。この短パン、元々は何色だったのだろう。
「いえ、それは結構です」僕は丁重に断った。「ガラスの弁償代にしてください」
「ガラスのことなら、気にせんでいいと前にも行っただろう?」
 茂さんは眉間に皺を寄せると、押し付けるようにお金を突き出した。
「いえ、子供の頃のガラス代ではなく、これからのことです」
「これから?」茂さんの眉間の溝がさらに深くなった。
「はい。今度また、ガラスを割りに行きます。だからどうか、元気でいてください。叱ってくれる相手がいないと、割り甲斐がないです」
 茂さんは、一瞬きょとんとした表情を浮かべると、ははっと吹き出すように笑った。
「馬鹿たれが。なんの反省もしとらんようだな」
 立ち上がりながら、茂さんはポケットに万札を乱暴にねじ込むと空を眺めた。僕も空に目を向けた。自然と笑みがこぼれる。綺麗な青
空だった。
「じゃあな。坊主。ありがとよ」
 茂さんは何か目標があるかのように、しっかりとした足取りで去っていた。その背中を見ながら、僕は大きく伸びをしてベンチに寝転
がった。昨日寝るのが遅かったので、少し眠い。
 茂さんは、これから柴田めぐみに会いに行くだろうか。女神様に会っていったいどうするのだろう。そういえば、柴田めぐみは女神様
というほどの美人ではなかった。まあ二十八年前はどうなのかわからないけれど。小学生がなにやら騒いでいた。明日、空き地でサッ
カーをやるらしい。そういえば、あの空き地はまだ空き地のままなのだろうか。向かいの家のひまわりは、まだ咲いているだろうか。ひ
まわりといえば、柴田めぐみはなぜあの場所に花を手向けていたのだろう。事故で亡くなった村上咲子とは、どういう関係なのか。また
あそこの塩ラーメンを食べに行きたい。きっと……。


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