2: ◆JbHnh76luM[saga]
2012/02/02(木) 21:26:33.86 ID:zYfJKhwLo
〜プロローグ〜
「おとうちゃん!」
少年の叫びが狭い室内に木霊する。少年は丸い窓の外で繰り広げられる死闘を瞬きせずに見ていた。
ナイティム『ブルー・エッジ』の敗北は既に決定的であった。所属していた大型汎用人型兵器『ライノクラフト(通称RC)』はその数を残り1機にまで減らし、敵のライノクラフトは1機が各坐しているものの、残りの4機はほとんど無傷の状態で剣を構えていた。
広大な大地で1機対4機のライノクラフトが対峙している。敵機の足元には無残に破壊されたかつての少年の家族とも言えるライノクラフトの搭乗員、ライダーと呼ばれる者達の乗機が倒れて煙を噴いていた。
「シェル、チーフ! 早く退避してください!」
少年、シェルが居る部屋に二人の少女が入ってきた。二人とも焦りの色が幼さの残る顔に浮かんでいる。
「しょうがないわね。シェル、行くわよ」
母親に手を引かれたシェルだが、彼はそこから動かない。その大きな瞳はじっと父親であり、ナイティムマスターであるガジェルの乗機『ブルー・エッジ』に注がれていた。
「おとうちゃんが負けるわけないじゃないか! だからここは大丈夫だよ!」
そう答える息子に母親は彼の肩に手を置き、膝を折って彼の視線に合わせる。
「そうよ、シェル。おとうちゃんは負けない。あの人が負けるわけないでしょ。整備も私がばっちりしているんだからね。だからこそ、今の間にここから離れるのよ。おとうちゃんが時間稼ぎをしてくれているの。今は時間を無駄にできないでしょ」
母親のそんな言葉にもシェルは頭を横に振る。
「おとうちゃんは勝つんだ! あんな奴らコテンパンにしちゃうよ!」
「確かにボスの腕は超一流だわ。でもね、シェル。敵はまだ4機もいるのよ。ボスが戦っている間にこっちに来たらどうするの? 今の私達に敵を迎え撃つ方法はないのよ。ライノクラフトもないし、ムーバには迎撃兵装なんて積んでないのよ」
二人の少女の片割れ、ショートヘアのライダー候補、魔夜香がシェルの説得に加わる。
「でも、でも……」
なおも何かを言おうとするシェルにもう一人の候補生、魔夜香の双子の妹である沙夜香が長い髪の毛がこぼれるのも構わずに身長のまだ低いシェルの目線にあわせてしゃがみ、
「大丈夫。お父様はすぐにかけつけてくださるわ。私達は万一の事を考えて避難するだけよ。お父様が戦いに勝ってもシェルが傷ついていたらお父様が悲しまれるわ」
シェルは沈黙する。
「ね? 行きましょう」
差し出された沙夜香の手をじっと眺めていたシェルがやっと握る。
「明日の勝利の為の撤退よ」
魔夜香がシェルの頭を撫でながら部屋を出るために扉を開き、3人を外に誘導する。
「早く来い!」
ムーバ本体に連結されているライノクラフトの整備や保管をするデッキの上には残ったスタッフが集まって各々ホバーバイクやトラックに分乗していた。シェルと母親は用意されていたホバーバイクに跨ぎ乗り、双子もその横に置かれたホバーバーイクに二人乗りする。運転は沙夜香の分担のようだ。
「みんな、バラン・バランで落ち合うのよ! いいわね、絶対無事に到着すること! ウチの宿六が時間を稼いでくれている間に出発するわよ!」
「はいっ!」
母親の言葉に全員が大きくうなずく。
ハッチが開き、各機が外に舞うように出発し、一瞬の滞空の後、地面に着地すると猛烈な勢いで目的地を目指した。
シェル達は最後にムーバを出て着地する。シェルは母の腰にしがみつきながら背後を振り返った。
巨大なムーバが佇んでおり、カタツムリの殻のような居住区と剥き出しの整備ブロックが見て取れた。そして、その向こうで父の蒼いライノクラフトが敵めがけて突っ込んでいくのが見えた。
「おとうちゃーーん!!」
シェルの絶叫と同時にブルー・エッジが敵の剣によって縦に両断された。
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