452:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:37:03.24 ID:JYEl3aKe0
だが、その時。
確かにゼマルディは妻の声を聞いた。
カランの声を、彼は聞いた。
建物の影から、白髪を振り乱しながら彼女が走ってくるのが見えた。その奥には、ドクもいたような気がする。彼は憔悴し、青白い顔で何事かを叫んでいた。
妻は、義足をつけていることにはいたが……殆ど外れてしまっていて、片足で走っているようなものだった。
453:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:37:31.86 ID:JYEl3aKe0
突然の少女の乱入に、周囲は唖然としてそれを見た。赤髪の女でさえ、一瞬彼女の方に目を向けた。
カランは歯を食いしばり、事実本当に転がりながらゼマルディに向かって、懸命に駆け寄ってきていた。途中で転がったが。両腕を使い、まるで獣のように。子供を守る母親のように。なりふり構わずカランはゼマルディに駆け寄ると。
そのまま脇を通り過ぎ、派手に転がりながら、赤髪の女に、頭から体当たりをした。
相手魔法使いは、全くの予想外だったのか小さな悲鳴を上げてその場に転がった。意識を集中していないと放てないのか、発光していた魔法が気の抜ける音を立てて掻き消える。
454:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:38:08.29 ID:JYEl3aKe0
次の瞬間。
それだけクリアに見えているゼマルディの視界で。
兵士の一人が撃った銃弾が、まるで紙の塊のように妻の体を突き刺し、放物線を描いて空中に吹き飛ばした。弾は彼女の胸を貫通したが、戦車に打撃を与えられる武装だ。その威力は、子供並のカランの体には有り余るものだった。
何の抵抗もすることができずに、壊れたマリオネットのように……カランはゼマルディよりも後方に、背中からぐしゃりと音を立てて落下した。
455:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:38:32.38 ID:JYEl3aKe0
どうしてカランが?
どうして、ここにいる?
逃げたのではなかったのか?
ドクと一緒に、逃げたのでは?
456:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:38:59.70 ID:JYEl3aKe0
やがて地面におかしな方向に四肢を曲げながら投げ出されている、少女の脇に近づき……彼女の腹に頭を乗せ、必死に顔を覗きこむ。
「カラ、ン……」
「……」
457:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:39:30.97 ID:JYEl3aKe0
「ど……」
「…………」
「ど、なた……ですか………………みえない…………」
458:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:40:00.76 ID:JYEl3aKe0
「お、ねがいが……あります…………」
「…………」
「わたしの、夫が…………このあたりに」
459:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:40:29.06 ID:JYEl3aKe0
「…………」
「に、げ、て……」
「……」
460:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:40:54.43 ID:JYEl3aKe0
――――――死んだ?
死んだのか――――――?
死んだ……?
461:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:41:21.67 ID:JYEl3aKe0
シンダ?
シンダ……?
…………………………
462:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:41:51.74 ID:JYEl3aKe0
唸っていた。
泣きながら、震えながら彼は唸っていた。ガチガチガチガチと歯が鳴った。
その目が、まるで映画の中のワンシーンのように。腰を抑えながら立ち上がった赤髪の女を、スローモーション再生のごとくゆっくりとした映像で映し出す。
本能的に動いた瞬間、腰のベルトに指していた……何かが音を立てて地面に落ちた。
それは、ルケンの肉切り包丁だった。
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