過去ログ - アンリ士郎「汝の欲す所を安価にて為せ!(キリッ」一同「へー」
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625:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/03/10(土) 21:22:44.10 ID:yheQES6i0
 私は椿堂に向かう。ひと所に立っているのが苦しかった。
 自分がつけたブーツの足跡のそばに、逆向きの跡を延ばしていく。
 銅板葺きの屋根が十センチほどの雪で包まれていた。まだつららも残っている。
 堂の左手にある椿は屋根の高さまで達して、無数の花をつけていた。葉上の雪と赤い花が色を競いあっている。

 堂の正面は、左右に釣鐘の形をした火灯窓(かとうまど)が配され、中央に二枚の戸がある。
 手をかけると、あっけなく手前に開いた。
 中は薄暗かったが、白一色の外側に対して、くすんだ木目が気持をなごませる。土間で足踏みをし、ブーツの雪を落とした。
 暗がりに目が慣れてくるにつれて、仏像の輪郭が浮かび上がってくる。
 まるで舞子のために、奥の方から出てきたかのように、全身をさらけ出している。

 不動明王は台座の上で跏坐(かざ)していた。
 弁髪を左に垂らし、右目を見開き、左目は半ば閉じ、口を一文字に結ぶ。右手で宝剣をまっすぐ支え持ち、
 軽く上げた左手には羂索(けんさく)を垂らしている。
 青黒く塗られた身体から発しているのは紅蓮の炎だ。
 木彫でところどころ虫喰いの傷みがあるにもかかわらず、四肢体幹に漲る力と、火焔光に残る朱は周囲を威圧している。


「不動明王は大日如来のもうひとつの姿だよ」


 この場に立って、住職は言った。
 ライダーには初耳だった。
 寺はもとより、博物館にも稀にしか足を運ばないので、どの仏像も同じにしか見えない。
 しかし不動明王だけは別で、数ある他の仏像とは、炎に包まれた異形の顔相で一線を画していた。


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