過去ログ - アンリ士郎「汝の欲す所を安価にて為せ!(キリッ」一同「へー」
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626:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/03/10(土) 21:26:34.46 ID:yheQES6i0
 ライダーは不動明王の左右に位置する童子の木像にも眼を移す。
 いずれも一メートルほどの高さで、初めの頃は朱や金で色付けされていたのだろうが、今では褪色して鉄錆色になっている。
 左側の童子は、やんちゃな餓鬼大将といった感じだ。
 捻れた棒を地面に斜めに突き立て、両手を重ね、その上に顎をのせてじっと前方を睨む。
 遠くからやって来る人間共を眺めながら、さてどんな意地悪をしてやるかなと思案しているような顔だ。

 それとは全く対照的に、右にある童子はふくよかな表情で空を眺め、手を合わせている。
 いかにも子供らしい純真さと聡明さが出ている。
 不動明王の激しい炎と怒れる形相に接したあとでは、ほっとした気持ちになる。
 サクラと一緒に観光で展示会に来た際も、私はこの童子に魅了された。
 サクラには言わなかったが、結婚して子供を生むとしたらこんな子供をさずかりたいと内心で思い、ひとりで顔を赤らめてしまった。
 でもサクラがいなくなった今、彼女に祝福してもらうことも永遠に叶わなくなってしまった。

 私は、不動明王を見て、左側の童子に眼をやり、また右側の童子に見入る。
 涙が溢れてくる。身体から力が抜けていき、立っているのがやっとだ。また振り出しに戻っていた。
 何度も立ち直ろうと思い、いろんなことをした。
 もっとも、初めのひと時はどうやって過ごしたか記憶にない。
 シロウたちの警護には行き、お姉さまたちのお世話もした。
 よくも休まなかったと思う。休めば、部屋の中に閉じこもり、なにも頭に浮かんでこなかった。
 これではいけないと思って、歯をくいしばってシロウたちと一緒にした。

 その代わり、ひどい時は寝巻きも脱がずに、ベッドの上で寝ていた。
 目を閉じているうちに電話が鳴ると、はっとしてサクラからではないかと手を伸ばし、
 もうサクラはこの世にはいないのだと気づき、愕然とする。
 涙を拭きながら、電話の音が止むのを待った。


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