過去ログ - アンリ士郎「汝の欲す所を安価にて為せ!(キリッ」一同「へー」
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636:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/03/10(土) 22:09:51.28 ID:yheQES6i0
「無ですから、苦しみも悲しみもない。いや悲しみはあるかもしれません。
 無そのものに悲しみの味が秘められていますから。喜びさえも悲しみに包まれています。
 いや無や悲しみが外側を彩っているので、すべてが喜びの色合を帯びてくるのです。
 白く降り積む雪、鳥の声、岩清水の音、路傍の花──」


 僧の優しい言葉づかいとは裏腹に、険しい表情が私の正面にあった。


「逆に、無に裏打ちされない喜びなど、この世にはありません。
 万物の命は線香花火よりも短いし、笑いこけている劇場の床が抜けて、奈落に落ちる。それが人の世です」


 私は頷く。あらゆる喜びと幸せにも結末があるという真実は、彼女たちの死で証明ずみだった。
 あの瞬間、すべてが停止した。舞台の明かりが消えたように、一瞬にして舞台が見えなくなった。
 しかもそれは一時の停電ではなく、永遠の停電なのだ。


「無に気づくことが苦しみをやわらげ、生きている喜びを増すのですか」


「そうです。その境地が読経によってたち現れるのです」


「わたしにはできません」


 私は力なく首を振る。



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