過去ログ - 勇者「淫魔の国の王になったわけだが」
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63: ◆1UOAiS.xYWtC[sagesaga]
2012/03/27(火) 02:51:50.17 ID:h7sEMOtHo
にわかに潤んだ紫の瞳から、涙が零れ始める。
荒々しく唇を奪われる息苦しさに加え、雰囲気と目前の男の体温に酔い、行き場を失った感情が洪水と化した。
紛れもない「魔族」が、愛を受け取った際に歓喜に流す涙。

俗的な考えをすれば、もしもこの涙を瓶詰めにして人界へ持ち帰る事ができたら、
あるいはいかなる難病をも治す神薬として名が轟くのかもしれない。
あるいは比類の無い強力な魔術武器の、触媒になるのかもしれない。

だがここは魔界、「彼」の治める城。
この涙を拭い、舐め取る事が許されているのは、「彼」のみだ。
しかし、彼は目の前のそれがどんなに貴重な物質なのかにも興味を示さず、ただただ、彼女と唇を重ねあう。
これがあるべき姿であるかのように、恋人のように。

遂に、舌先が歯の間を割り、本格的に口内へと進入する。
いつしか、二人は指を絡め合っていた。
彼の右手と彼女の左手。
彼女の右手と彼の左手。
指という糸を一本一本、織り合うかのように一つに重ねて。

涙と、指と、密着させあう身体に反して、深く求め合うキスは、「粗暴」に尽きる。
舌先を突き合わせ、彼女の歯茎をなぞり、どちらの唾液かも分からぬほどに、互いの口元をぐっしょりと濡らし合う。

比喩ではなく現実に花のように甘い吐息が彼女の口から吐き出され、勇者の口内から鼻腔を楽しませる。
この甘い接吻に慣れてしまった今では、かつての宿敵が語ったように、人界の女では満足できないのだろう。
今となっては、淫魔達との、堕ちた女神との、煮詰めた糖蜜のように甘く、地獄のように燃え盛る夜が日常となってしまった。

ここへ来てしまった事へ想いを馳せながら、唇を貪り――いや、犯し続ける。
そして、すぐに思索を打ち切り、眼前の淫魔へと意識を向けた。


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