過去ログ - 黒井社長「行くぞっ!!青二才っ!!」(アイマスSS)
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2012/03/29(木) 12:20:52.63 ID:lnWJ8GSr0
長い廊下を歩き、広い客間に案内された。社長に続いて中に入ると、四条家の御当主と、その奥様がお待ちになられていた。社長と並んで互いに
挨拶を交わし、一枚板の見事なテーブルを挟んで下座に腰を下ろす。当主と奥様に会うのは初めてではないのだが、毎回緊張する。

「いやあ、遅れてしまってすまない御当主殿。今朝一番に仕事でトラブルが発生しましてな。こちらにもご迷惑をかけてしまった」

まるで友人のような軽い調子で、社長が謝罪する。障子の向こうから殺気がするのだが、おそらく警備の方達が、うちのバカ社長の無礼な振る舞
いに怒っているのだろう。ちょっとは真面目に謝れよ。しかし御当主はそんな様子を気にするわけでもなく

「いえいえ、黒井はんが遅れる事は、昨夜のうちにわしの式神が教えてくれたんで、気にしはることありまへん」

白髪の混じったグレーの髪をした品のある御当主が返事をする。薄い灰色の和服がよく似合う御当主は、外見だけ見るとお茶や俳句の先生のよう
な、線の細い優しい雰囲気を醸し出している。しかしこの人が、極道でも震え上がる京都の守護神なのだから、油断は出来ない。ちなみに先ほど、
御当主の口から式神などという不穏な言葉が聞こえたような気がするが、幽霊やオカルトの類を信じていない俺は聞き流すことにする。決して怖
いわけではない。断じて怖いわけではない。

「おい聞いたか青二才。式神が私の遅刻を教えてくれたらしいぞ。やっぱり幽霊やモノノケってのは実在するんだなっ!!」

「わざと言ってるでしょうアンタッ!?それに式神をおばけと一緒にしたら失礼ですよっ!!」

この性悪め、俺をいじる機会は絶対見逃さないのが腹立つ。しかも陰陽師の目の前で何て失礼なことを言いやがる。俺だって式神と幽霊の違いな
どハッキリ分からないが、一緒くたにするのは違うと思う。むしろ陰陽師というのは、式神を遣って悪霊を退散する人達ではないのか?まあマン
ガやドラマで見ただけだから、正しいかは知らないが。というか知りたくない。

「あおはんは相変わらず面白いどすなあ。京都花月で黒井はんと漫才やりはったらおもしろそうおす」

御当主の隣で奥様がくすくすと笑っていた。奥様は50を越えていると思うのだが、20代に見えるほど若くお美しく見える。雅な京ことばで、俺を
「あおはん」と呼んでは、いつも俺と社長とのやりとりを御当主の横で笑っている。

「まあ普通のお方には、式神もおばけも似たようなものですわ。うちの娘も、区別がついてないようやしなあ」

御当主が頭をかきながら、少し困った様子で話す。

「失礼します。お茶をお持ちしました」

その時、障子の向こうから声がしたと思えば、先ほどの女性がお茶を乗せたお盆を持って静かに入ってきた。そして無駄のない優雅な動作で、
俺達の前に静かにお茶を置いていく。配り終えたところで、御当主が女性に声をかけた。

「貴音、お客様にご挨拶しなさい」

そう言われた彼女は、奥様の反対側のご当主の横に座り

「あらためまして。お初にお目にかかります。わたくしは四条家の娘、貴音と申します。今後とも、どうぞよろしくお願い致します」

そう言って、彼女はふかぶかと頭を下げた。

「もうよい。下がりなさい」

御当主は彼女に優しく語りかけると、退席するよう命じた。

「はい。それではわたくしはこれで失礼致します。どうぞごゆるりとお過ごしください」

「ああ、そうさせてもらうよ。先ほどは案内ご苦労だったな。感謝するよお嬢さん」

社長が礼を言うと彼女は軽く会釈をして、静かに客間を出て行った。彼女の足音が完全に聞こえなくなってから、俺は御当主に切り出した。

「貴音という名前を与えてくれたのですね・・・・・・」

「ええ。先月養子に迎え入れましてなあ。四条家の娘として正式に迎え入れるための、わしらなりのけじめみたいなもんですわ。ええ加減、
 『ツキコ』じゃあの子もかわいそうですしなあ」

御当主が少し気恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに話す。

「いやしかし、見違えましたなあ。あの "ツキコ"が、まさかあそこまで立派に成長するとは。まさに立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合のよ
 うという言葉を体現したような美しい女性になって。これも奥様の躾の賜物ですかな」

社長が思った感想を口にする。社長も嬉しそうだ。

「大袈裟どすなあ黒井はんは。元々あの子はわたしがしつける前からええもん持っとりました。せやから、わたしはちょっとばかし、手助けをし
 ただけどすえ」

奥様も自分の子供を誉められて嬉しいのか、笑顔である。もちろん俺も嬉しくないわけがない。あの幼かった"ツキコ"という少女を、あそこまで
見事に美しい女性にしてくれるとは思わなかった。まだおそらく17かそこらの年齢だと思うが、とても大人びた雰囲気で少女とは思えない。




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