過去ログ - 【Fate】エクストラっぽいホロウ的な何か【デバッグ】
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503:1 ◆sEqVJUZ1Fg[saga]
2012/05/01(火) 22:11:57.22 ID:MUMBu3+Io
「――ッ」
「……な、に?」

微かに、私の口から音が漏れる。
それをきいて、女性が驚嘆の声を上げた。だがそんなことはどうでも良い。拘束は未だ続いている。
長い言葉なんて話せない。今、生かせるのは一人だけ。だから彼女がこの命を刈るより早く、私は、

「――逃げて、アーチャー!」

渾身の力で戒めを振り払い、令呪にその願いを叩き付けた。
そうして、莫大な魔力が消費される。奇跡の絶対命令権を以って、アーチャーはこの死地から離脱する。
大丈夫。私を失ってもアーチャーには単独行動のスキルがある。だから、きっと他のマスターを見つけて、願いを叶えてくれるはず。
……なのに。

「断る、マスター」
「――なんで」

彼は、目前の黄金を掴み、その神秘を以って令呪の戒めを振り払った。
心眼の見極め。どんな死地でさえ、逆転の可能性があるならば手繰り寄せるその技能を。

「……どうして、そんなことに使うの?」

そうして、不機嫌な表情を浮かべた少年が、アーチャーの胸に一撃する。
それで終わり。霊核を砕かれた彼は、もはや令呪であっても助け出せない。此処に、アーチャーの敗北が決定された。

「なんで……叶えたい願いが、あったんじゃないの?」
「なに、簡単なことだ」

倒れたアーチャーに近寄る。
女性は、何故か私を殺さず、止めもしなかった。

「言い忘れていたが、私の願いは……」

そうして、後一歩で彼に触れられる。そんな距離まで近づいたところで。

「君の記憶を取り戻す、それだけだった」

――すまない、最強のサーヴァントになってやれなくて。

そう告げて、私のアーチャーは光となって消えてしまった。
手が、一瞬前まで彼がいた場所に触れる。
アスファルトに残った僅かな熱を感じて、一筋涙が零れ落ちた。

「それ、逆だよ、アーチャー」

――私が、貴方の過去を取り戻してあげたかったんだ。

ついに伝えられなかった台詞を零す。
伝えたい事がまだまだいっぱいあったけど――全部が全部手遅れで、その分の涙が止まらなかった。

「……投影の魔術使いと、最高位の幻獣。原色の魔術師と、魔術師ですらないマスター」

見届けた女性が、タバコに火をつけながら告げる。

「私たちと、君たちの相性の差は絶望的だったと言っていい」

故にこの結果は必然だと、眼鏡を外しながら女性は言う。

「だが、彼の一撃はルゥの片腕を奪い、君は私の魔眼に抗った」

力なく座り込む私の手を取り、

「それを成した強い意志に、敬意を払う――だが」
「……ッ」

手に焼き付くような痛み。同時に、残った令呪が消える。
同じ模様が、女性の手の甲に現れた。

「だからこそ、私は君を完全に敗退させよう。彼の意志を無駄にさせない為にな」

まあ、元々奪うつもりではあったのだが。
そう小さく呟いて、女性は再び私の目を覗き込んだ。

「暫く眠っていろ。なに、私は刻印を奪った相手の面倒を見る為に会社まで設立したのだ」

冗談のように告げる彼女の顔が、段々と見えなくなる。

「だから手伝える願いなら後日いくらでも叶えてやるし」

――私に出来ないことは、この戦争が終わればなくなっている。
そんな言葉とともに、私の意識は深い闇の中へ落ちていった。


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