44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]
2012/05/19(土) 16:01:44.48 ID:oO9qLT0Vo
人間の希薄になった原始的感覚は、まだ同族の死を明瞭に知覚できる程度には鈍磨しきってはいなかったようだ。
更に色を濃くし始めた死臭が、その事実を織莉子の本能に突き付ける。
でも織莉子の脳は、それをそうと認識することを拒絶した。
大部分の人間がそうであるように、彼女もまた卑近な者の死をそう簡単には受け入れる事が出来なかったわけだ。
お父様が死んでいる、まさか。
そうよ、お茶目なお父様の事だもの、偶にはこうやっておふざけになる事だってあるに違いないわ。
織莉子はそう自分に言い聞かせながら、父の肩を揺すった。
けれどその肩は酷く冷たく、そしてぞっとするくらい硬かった。
死後硬直と体温低下、そして揺すったことにより放たれたより濃密な死の臭いにより、父の死と言う残酷な現実が、本能の垣根を越え彼女の認識にまで到達する。
「あ、あぁ……ぁああああっ……!」
認めたくない、認められない、お父様が死んでしまったなんて。
お父様、お父様、お父様、お父様……!
そうやって叫んだのを最後に、美国織莉子の意識はフェードアウトした。
そのままフェードアウトしっぱなしだったなら、それは彼女にとってどれほど幸せなことだっただろう。
少なくとも世界最後の日まで、過酷な運命に翻弄される事はなかったのだから。
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