過去ログ - 律「うぉっちめん!」
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12:律「うぉっちめん!」[sage saga]
2012/05/21(月) 22:20:50.76 ID:Bk4utWlu0
警察の眼を盗んで、唯の墜落現場から拾った物だった。
それには一条の血液が付着している。言うまでもなく、持ち主だった唯の血だ。

管理人「どうぞ、こちらです」

エレベーターが開くと同時に管理人から声が掛かる。
律はキーホルダーをしまうと、無言で彼に付き従った。



部屋の中は、警察の捜査が入った以外は、事件当夜のままだった。
物色によって荒らされたまま、である。

律「じゃあ、妹さんに頼まれた分と私が貸していた物を整理して持って行かせて頂きますので」

管理人「……あの、その前にちょっといいですか?」

ノートと油性マジックを取り出すと、管理人はニヤニヤと下品に笑って言った。

管理人「あなた、放課後ティータイムってバンドの田井中律さんですよね」

律「ええ、まあ。元、ですけど……」

管理人「いや、娘があなたのファンでしてね。絶対サインをもらってくれ、ってうるさいもんで」

この野郎。こんな時にどんだけ不謹慎なんだ。唯にも同じ事を言ってサインをせがんだんじゃないのか。
言いたい事は山程あったが、律はしかめっ面でノートと油性マジックを受け取ると、サラサラと
手を動かし、管理人に返した。

管理人「へ……?」

ノートには太い文字で大きく『断る!』とだけ書かれていた。
律はもう彼には目もくれず、室内の整理を始めている。
頬を引きつらせた管理人は、乱暴に合鍵をテーブルに置くと不愉快そうに吐き捨てた。

管理人「私も暇じゃないものでね。下に戻ります。鍵は置いていきますから、さっさと終わらせて
    下さいよ」

ドアが閉められる音を背で受けると、律はニヤリと笑い、サングラスを外した。
怒って帰ってくれた方が都合がいい。
目的は遺品の整理ではなかったし、妹に頼まれたというのも嘘なのだから。
この部屋から唯を殺した犯人の手がかりを見つける。目的はただひとつ、それだけ。
唯には悪いが、唯の為なのだ。

律「あの時の電話…… 唯、お前は私に助けてほしかったんだよな?」

律は十二畳のワンルームを隅から隅まで徹底的に調べ尽くした。
犯人が隅から隅まで徹底的に荒らし尽くした跡をトレースするかのように。
しかし、めぼしい手がかりは何ひとつ見つからない。
それも当たり前だろう。警察のような捜査技術も無く、元に何があってそこから何がなくなっているかも
わからないからだ。
次に律はパソコンに目を付けた。
パスワードが設定されていないのは、唯の性格によるものか、それとも一人暮らし故なのか。
フォルダというフォルダをすべて開いてみたが、やはり事件に繋がるようなものは見当たらない。
あるのは詞が書かれたワード、お気に入りのサイトのショートカット、風景や仕事仲間を写した
平穏なデジカメの画像くらいなもの。

律「ふうむ……」

律は溜息を吐くとPCデスクから離れ、ベッドに腰掛けた。
枕元の辺りに写真立てがひとつ、倒れている。
何の気無しにそれを手に取り、中の写真に目を遣った。
そこに写っていたのは平沢唯、秋山澪、田井中律、琴吹紬、中野梓。放課後ティータイムの
五人である。
ただし、それは2009年、桜ヶ丘高校軽音楽部だった頃の放課後ティータイムだった。
とびっきりの。
満面の。
心の底からの。
どんな形容詞でも足りないくらいの笑顔を浮かべる五人。
律はふと、開きっ放しになっていたPCの画像に目を向けた。
そこにも放課後ティータイムの五人が写っている。2014年6月に紬が脱退する直前、日本中を
彼女達の人気が席巻していた頃の五人だ。
大人びたよそ行きの笑顔で写真に納まるメンバーの中、唯だけがあの頃のままの笑顔を浮かべていた。



その日、中野梓は塞ぎ込んでいた。
明け方近くに関係者からの電話で唯の死を知り、すべての予定をキャンセルし、終日ベッドに
横臥していた。
点けっ放しのテレビから流れてくる『平沢唯殺害』のニュースはどれも同じ内容だった。


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