過去ログ - 律「うぉっちめん!」
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16:律「うぉっちめん!」[sage saga]
2012/05/21(月) 22:28:48.46 ID:Bk4utWlu0



『日誌 田井中律、記 2022年10月13日11時05分
 電車の中で隣に座ったカップルの女の方が、しきりに臭い臭いと男へ耳打ちしていた。
 確かにあの夜以来、風呂にも入らずに駆けずり回っている。
 だが、私には女の香水の匂いの方が我慢ならない。
 メスが交尾相手のオスを呼び寄せる悪臭だ。
 女の鼻の骨を折り、男の頭を手すりに叩きつけてやった。
 乗客は皆、見て見ぬ振り。関わり合いにならなけりゃ、対岸から火の粉は飛んで来ない
 と思っているウジ虫共。
 そうしているうちに世界中が火の粉に覆われるんだ。

 今日はムギに会おうと思う。
 もしかしたら何か有力な情報を知っているかもしれない。
 あいつは芸能事務所の社長をしているし、マスコミが言うには“世界一賢い女”らしいからな。
 何とも馬鹿馬鹿しいたわ言だが。

 それにしても、梓にもらったシュークリームが美味い』



コトブキ・エンターテインメント本社ビルの社長室。
そこで琴吹紬は革張りのソファに座り、律と向かい合っていた。
律はコートを無造作に脱ぎ捨て、Tシャツ姿となっていたが、ニット帽とサングラスは決して
外そうとしなかった。
白のTシャツには黒い大きな文字で、胸の部分に『THE END IS NIGH(終末は近い)』、
背面に『BeHinD yOU(後ろにいるぞ)』とそれぞれ書かれている。
妙な風貌、薄気味悪い雰囲気、それに体臭。気になるところは幾らでもあったが、それを
無遠慮に指摘する紬ではない。
高校時代のように、にこやかに自らの手で紅茶を淹れ、菓子を振舞った。

紬「唯ちゃんの事は本当に残念だわ。何故彼女が殺されなければならなかったのかしら……」

律「こっちが訊きたいよ。ムギ、お前は何か聞いてないのか? 業界内の噂話とか。とにかく、
  これはただのストーカーの仕業じゃない」

紬「さあ…… 噂話も何も、唯ちゃんはそれ程大物って訳でも無かったから。音楽業界でも
  タレント業界でも」

紬の言葉に、律は眉根を寄せ、サングラスに隠された眼を細く光らせた。

紬「それに、唯ちゃんのファン層は所謂オタクと呼ばれる人達が多かったから、警察の発表している
  『熱狂的なファンによるストーキング殺人』で概ね間違い無いかもしれないわね」

律「ふうん……」

律がゆっくりとソファから腰を上げた。

律「唯は音楽が大好きで大好きで、自分の求める音楽を追いかける為に苦悩し続けた。本当の意味
  での“ミュージシャン”だった。クズ共に金を吐き出させるしか頭に無い、一山幾らの淫売と
  一緒にするな」

紬「まあ。秋元さんに聞かせてあげたいわね」クスクス

律「それとな」

オーク材で出来た豪奢なデスクへ歩みを進めると、律はそこに腰掛けた。

律「少なくとも唯は放課後ティータイムの栄光を売り物にする事は無かった。どこかの誰か
  みたいに、親父から継いだ企業の宣伝に自分を使ったり、表紙に自分の写真をデカデカと
  印刷した経営指南書を出版したりはしなかった。売女に身を堕としたりはしなかったんだよ」

紬「……耳が痛いわね」

どちらの顔からも笑みは消えていた。いや、律はこの会談の最初から一度も笑顔などは浮かべて
いなかったが。
しばしの沈黙の後、律はデスクから離れ、コートを羽織った。
ついでに皿の上のクッキーやチョコレートを掴み取り、ポケットへ放り込む。

律「“世界一賢い女”のとこに何か情報が舞い込んだら、連絡をくれよ」

紬「私がそんなに心の広い女だと思う?」

律「思うよ。ああ、告別式は行くんだろ?」

紬「勿論。……りっちゃん、少し見ない間に変わっちゃったね」

律「お前もな。また太ったか?」


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