過去ログ - 律「うぉっちめん!」
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235:律「うぉっちめん!」 [sage saga]
2012/10/29(月) 12:48:45.53 ID:wxkse66t0
第六章《死の女王》

2022年10月21日午前11時46分。
東京の新名所である高層ビル“グラスタワー”は、平日であるにもかかわらず多くの人で
賑わいを見せていた。
天に向かってそびえ立つ138階建ての塔は、全面のガラスが太陽の光を輝かせ、まるで現代
美術を象徴するかのような美しさをまとっている。
そして、その一階。多くのテナント・ショップが軒を連ね、若者や家族連れが通路を行き交う中、
メモを片手に重い足取りで歩く平沢憂の姿があった。

憂「ええっと、エレベーターはどっちかなぁ……」

年齢的にも、性格的にも、現在の心境的にも、流行の場所へ赴く事には向いていない。
そう自覚している。
しかし、絶えず自分の身を案じる人物が厚意で誘ってくれて、今後の援助さえも申し出て
くれているのだ。真面目で律儀な性格の憂でなくとも、自宅に引きこもっている訳には
いかないだろう。
たとえ、胸の悪くなるような人の多さでも。たとえ、頭上の案内表示が更にややこしさを
増すような複雑な建物の造りでも。

憂「もう、わかんないや…… お姉ちゃんや純ちゃんがいてくれたらなぁ…… 梓ちゃんとは
  全然連絡が取れないし…… ぐすっ……」ポロッ

遂には立ち尽くし、涙をこぼし始めた憂。そんな彼女に後方から歩み寄る者がいた。

?「どうしたの? 迷っちゃった?」

憂が振り向くと、長身かつ精悍な顔つきの男が白い歯を見せて笑っていた。

憂「あ、はい…… エレベーターで110階の“カフェ・ムジョルニア”っていうところに
  行きたいんです……」

?「ああ、簡単簡単。ここをずっとずぅーっとまっすぐ行ってさ、右に折れりゃエレベーター
  乗り場があるから。あとは110階に着いたら目の前だよ」

憂「ありがとうございます! 助かりました! あの、本当にありがとうございます……!」

?「いやいや、そんな大した事してないから。じゃあ、気をつけてね」

ペコペコと何度も頭を下げる憂であったが、男は既に背中を向けてその場を離れつつあった。
見れば、連れと思わしき中年男性と談笑しながら、あまり人のいない方向へ歩いていく。
憂にはそのどちらにも微かに見覚えがあった。

憂「あれ……? 今の人って、もしかして“LUV”の小椎尾学さんじゃ…… それに、一緒に
  いた人は、確か澪さんのプロデューサーさん……? 芸能人さんや業界人さんが普通に
  歩いてるなんて、やっぱりグラスタワーってすごいところなんだなぁ……」



110階のエレベーターが、チンとベルを鳴らして開かれた。
憂は教えられた通りの道筋をたどり、ようやく目的の場所へと到達していた。
だが、今度は店の絢爛豪華な造りと雰囲気に圧倒されている。
いつまでも店の前でグズグズしている憂を見かね、案内係のギャルソンが声を掛けた。

ギャルソン「カフェ・ムジョルニアへようこそ。お客様、本日のご予約はございますか?」

憂「え? あ、は、はい……! 平沢憂なんですけど…… 12時に……」

ギャルソン「少々お待ち下さいませ。……ああ、はい。確認致しました。こちらへどうぞ」

店内は北欧風の上品な雰囲気であり、客もまたそれに見合う上品さで喫食や会話を楽しんでいる。
憂はオドオドとギャルソンの後ろを歩いていたが、そのうち席に座ろうとしていた客の一人に
ぶつかってしまった。

憂「あっ! す、すみません!」ペコペコ

老齢と思しき男性客は言葉を発さず、憂をジロリと一瞥すると、そのまま何事も無かったかの
ように席に着いた。
テーブルには、彼と同年代の男性客が他に二人座っていた。



男1「――失敬。待たせたかな」

男2「いや、私達も今来たところだ」

男1「しかし、こんな店に役員を三人も呼び出すとは、会長は何をお考えなのかな。我々も
  暇ではないというのに」

男2「……」


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