過去ログ - 律「うぉっちめん!」
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72:律「うぉっちめん!」 [sage saga]
2012/06/04(月) 22:11:34.15 ID:Lp/b32q40
第四章《この世で一番悲しい音》

監督「よし! オッケー!」

男性の声がスタジオ内にこだますると、澪は疲れ切った表情で、大きく息を吐いた。
監督、ヘアメイク担当のスタッフやマネージャーが、照明に照らされた彼女の元に歩み
寄って来る。

監督「いやあ、澪ちゃん、良かったよ! 澪ちゃんの存在で、映像に締まりっていうかさ、
   緊迫感が出せたよ。無理言ってすまなかったね」

澪「いえ、そんな…… むしろ、カメオ出演とはいえ、私なんかが監督の映画に出演して
  ご迷惑掛けたりしないかなって……」

監督「なぁに言ってんの! ホント、謙虚だねえ。澪ちゃんは」

澪「そ、そんな事…… じゃあ、私はこれで失礼します。ありがとうございました」ペコリ

監督「いやいやいや、こちらこそありがとう! お疲れさん!」パチパチパチパチ

有名俳優「よっ!」パチパチパチパチ

スタッフ「お疲れ様でしたァ!」パチパチパチパチ

監督の率先した拍手につられ、他の共演者やスタッフも大きな拍手を響かせる。
歓声と拍手の渦の中、冷汗三斗の澪はマネージャーと共にスタジオを後にした。



駐車場までの道すがら、連れ立って歩く年下の男性マネージャーは、仕事柄なのか元々の
性格なのか、やや疎ましいくらい積極的に澪へ話し掛けていた。

マネージャー「“主人公に仕事を依頼しに来る女性要人”って割には、出演は三分くらいの
       ものでしたね。もっと目立つ役だったら良かったのに」

澪「私にはその三分が二時間くらいに思えたよ。はあ、疲れた……」ゲッソリ

マネージャー「でも、こう言っては失礼ですけど、秋山さん、意外と演技上手いですね。
       前にお芝居の仕事をされた事があるんですか?」

澪「いや、全然。高校の学園祭でロミオを演っただけ」

マネージャー「それであの演技力ですか。やっぱこういうのは才能なんですねえ。僕なんか
       学校の演劇と言えば、木の役くらいで…… アハハハハ」

澪「……」

急にむっつりと口を閉ざす澪。
事務所の社員達の間では、彼女の扱いづらさは最早伝説になっていると言っても過言では
無かった。
高い実力に反比例するかのようなメンタルの弱さ。
そこから来る浮き沈みの激しい性格。
礼儀正しさや謙虚さの裏に隠された嫉妬深さ。
病理の域に達する、異常なまでの音楽へのこだわり。
そして、いくつかのNGワード。
特に『平沢唯』の話題は絶対的禁忌と皆が認識していた。
この年若いマネージャーは、何か地雷を踏んでしまったのだろうかと内心恐れを抱きながら、
無言の澪の一歩後ろで小さくなっていた。

澪「今日は、一人で帰るから……」

車まで数mのところで、リモコンキーのボタンを押しながら澪が呟いた。

マネージャー「え? いや、それはちょっと…… ここ最近、物騒ですし」

澪「別に気を遣わないでハッキリ言ってくれていいよ。『唯が殺されて、ムギが襲われたから』
  ってさ。でも、犯人はおととい、逮捕されただろ?」

マネージャー「とは言っても……」

澪「いいから。一人になりたいんだ」

彼の返事を待たず、澪はさっさと運転席に乗り込んでしまった。

マネージャー「あ、ちょ、ちょっと、秋山さん!」オロオロ

慌てるマネージャーを尻目に、クラクションがひとつ鳴らされ、澪の乗る黒のジャガーXJは
颯爽と駐車場を飛び出した。


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