過去ログ - 律「うぉっちめん!」
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74:律「うぉっちめん!」 [sage saga]
2012/06/04(月) 22:21:09.10 ID:Lp/b32q40

駐車場に響き渡る金切り声。
反響が消える間も無く、澪はルポライターに背中を向け、エレベーターへ走り出した。
彼は頭を掻き掻き、その背中を見送る。

ルポライター「あちゃー、手綱の操り方を間違っちまったかな。どうも勘が鈍っていけねえや」ヘラヘラ

小憎らしいニヤケ面に僅かな陰が差す。

ルポライター「妙ちくりんなとこばっかの事件だわ、仕事のイロハを仕込んでやった後輩が
       自殺するわ、そりゃ勘も鈍るか……」カーッ ペッ



自身の部屋に、息を切らせて駆け込んだ澪。
バッグを投げ捨て、着替えもせず、ベッドに倒れ込む。
せっかく平静を保てていたのに。せっかく平安を取り戻したのに。
何故、皆はあいつの影を私に見るのか。
何故、あいつは死んでまで私を自由にさせてくれないのか。
頭蓋の中では、唯の笑顔、唯の泣き顔、唯の陰鬱な顔がグルグルと渦を巻いている。
やがて、それは己の半生の記憶と混じり合い、赤茶けた不毛の大地に広大な記憶の宮殿を
形成していった。
止まる事を知らないかのように、癌細胞が広がるが如く、宮殿は大きさを増していく。
その宮殿の廊下を、澪は一人歩く。
廊下の左右には、無限とも思える数の扉があり、それぞれ年月日が刻印されたプレートが
取り付けられていた。
澪は数ある扉のひとつに近づき、ノブにそっと手を掛けた。



2007年8月。私は合宿に来ている。唯と律とムギの三人も。
唯は無邪気にギターをかき鳴らしている。たくさんの噴出花火をバックに。
とても綺麗だ。花火がじゃない。唯が。とても綺麗だ。
私はまるで魂を吸い取られたかのように、身動きひとつ取れなかった。
眼を奪われ、言葉を出せず、胸が高鳴っている。
魅せられていた。
そうだ。この時、確かに私は唯に魅せられていたんだ。



2014年12月31日。一流ホテルのパーティホール。その控え室。
10分後に、唯の放課後ティータイム脱退記者会見が始まる。
ここにいるのは私、唯、律、梓の四人。
誰も言葉を交わそうとはしない。視線を上げようとはしない。
重苦しい粘性の空気が、私達を覆い包み、呼吸さえも容易ではない。
やがてADが会場入りを促し、私達は立ち上がり、部屋を出ようとする。
最初に律が控え室を出て、その後に梓が続いた。
私の前には唯がいる。
その唯が、部屋を出る直前、私の方へ振り向いた。オドオドとした気弱そうな笑顔で。

唯『あの、澪ちゃん…… 私ね、澪ちゃんに出会えて良かったよ。高校生の時、軽音部に
  入って、それから、今までずっと――』

澪『どいてよ』ドンッ

唯『あうっ……!』ドテッ

私は唯を突き飛ばし、唯は床に尻餅を突いた。
そんなに強く力を込めたつもりは無かったのだが、彼女の卑屈な笑顔や綺麗事ばかりの言葉に
苛立ってしまったのかもしれない。
唯は床にへたり込んだまま、潤んだ目で私を見上げている。

唯『澪ちゃん……! どうして!? どうして私の事が嫌いになったの!? どうして私達は
  こうなっちゃったの!? 私には…… 私にはわからないよ!』

澪『……』

私は何も答えず、無言で控え室を出る。背中で唯の泣き声を聞きながら。

唯『うぇえええええん! お願いだよぉ! 教えてよ、澪ちゃん! うわぁあああああん!』

この時、私は唯に答えてやるべきだったのだろうか。
喉元まで出かかって、飲み込んだ言葉。

澪(それは、私が秋山澪で、お前が平沢唯だからだよ……)


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