66:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/05/26(土) 03:24:37.15 ID:kzFRXxTDO
〜 後日談 〜
「ふむ」
貯金箱を揺さぶる。
重い手応え、小気味よい金属音が返ってきた。
オッズが十倍……のままなら良かったのだが、自分たちの高校の代表ランナーだけあって、最終的には三倍弱にまで彼のオッズは落ち着いていた。
まあ、例え一倍でも私は彼に賭けるつもりだが。
「……ふふっ」
待て、それでは賭けの意味が無いのではないか?
自分で自分に突っ込み、それが何だか妙におかしくて、つい笑い声を漏らしてしまう。
さて、もう十分に堪能した。
机の最上段、私は貯金箱をいつもの場所に戻した。
過去の憧憬はひどく甘く、病的な美しさを輝かせている。
それらが傷つけられた時、すべてを否定された気がして、すぐに頭に血が上ってしまうのは私の悪いクセだ。
今回もそのせいで自暴自棄になってしまい、相手の言葉に乗って自分を賭けに出すというバカな真似をしてしまった。
今にして思えばとんでもないことだ。
うん、邪魔になるくらいなら遠くに行こう、なんて殊勝な考えからの行動ではないのだ。すまない。
だが今回、彼の取った行動に胸がときめいたのは確かな事実だ。
こういう風に、もう少しばかり好意を真っすぐにぶつけてくれれば、私も素直になれるかも……しれな……。
いや、うん。
いや、……うん。
……とにかく、今回は彼に負担を掛け過ぎた。
せめて手料理でも作ってねぎらってあげよう。
親は旅行中だし。彼は筋肉痛で身動きが取れないし。
しかし、本当に城を買える程に金が貯まったら、彼はどんな顔を見せるだろうか?
親のつくったレールではない、私の本当の気持ち。
それをぶつけた時に見せるであろう、彼のアワを食った顔を想像すると、自然、私の笑みは深まってしまう。
さあ、どうする勇者よ? 貯金箱の中身は銅貨から銀貨、そして金貨へと変わりつつあるぞ?
私はいたずらっ子のような笑みを顔に張りつけ、一階のキッチン目指して階段をゆっくりと降りていくのだった。
──完
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