693:劇場の国 -Welcome to Cinema-[saga]
2013/12/23(月) 00:38:57.46 ID:aWllO/4h0
穏やかな日差しの春の日です。
キノはパラパラと台本を捲っていました。横にいるモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)にも見せてやります。
「もう、ページを捲るのが早いよキノ。それじゃあ台詞を覚えられない」
「台詞って言っても、ボク達に台詞なんてないじゃないか」
二人は入国して早々に分厚い台本を渡されました。一日分を何十冊もです。
しかし台本の中身は真っ白でした。
「三日分だけにしてもらえてよかったね。この国に住むことになったら、あれを全部覚えなきゃならなくて大変だよ」
「多分、全部白紙だろうけどね」
聞くところによると、この国では掟により、誰もが与えられた役を演じなければならないというのです。
理由を尋ねると、この国の主がそう決めたから、だそうです。
主役たちは既に決まっており、この国の住人ほぼ全ては脇役です。入国した二人も掟に従って役を演じることになりました。
二人に与えられた役割は、そのものずばり"旅人"です。旅の準備をするために訪れただけという設定でした。なので、台詞は必要ないのです。勿論主役たちに声を掛けることは禁止されました。
「キノなら立派な悪役になれたんじゃないかな。この国にはパースエイダーを持ってる人全然いないんだもん」
「ボクにはそういうの向いてないと思う」
細い腰に巻いた太いベルトにぶら下げているホルスターを押さえながら答えます。中にはハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)が収まっています。
「おっと、そろそろ出番みたいだよ」
二人は主役の少女達を遠巻きに見つめながら道を走ります。
それほど広い国ではなかったので、同じ場所を何度もぐるぐる回っていました。主役たちのいないところでは観光も許されていましたが、特に面白いものは見当たりませんでした。
一日目が終わりました。
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