過去ログ - まどか「魔法少女の短編集」
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695:劇場の国 -Welcome to Cinema-[saga]
2013/12/23(月) 00:43:34.70 ID:aWllO/4h0

 三日目、キノ達は出国の準備を整え最後の舞台に立ちます。
「一つ気になってたんだけどさ」
「なんだい」
「このお芝居は一体誰が見ているんだろうね」
「そりゃこの国の主じゃないの?」
「せっかくだから挨拶しておけばよかった」
「案外誰も見てなかったりしてね。ボクが観客だったら、こんなお芝居絶対見ないよ。毎日同じようなことの繰り返ししかしないなんて」
「でも、大切なのは主役であって、脇役じゃないからね。彼女達には何かドラマが起きてるんじゃないかな」
「主役ばっかりずるいよ、エゴひのきだ!」
「……エコヒイキ?」
「そうそれ」
 二人はまた同じ道を走っていました。すると突然、脇から少女が飛び出してきたので、慌ててブレーキを掛けます。
「危ないなあ。モトラドは急に止まれないんだよ」
「いやあごめんごめん。ちょっと急いでてさ」
「おや、あなたは確か主役の方でしたよね」
 薄いベージュのブレザーと黒のチェックスカートに身を包んだ少女を見てキノが尋ねます。鮮やかな空色の髪を靡かせ、少女は答えます。
「主役ってほどでもないよ。本当の主役はこの国の主、一人だけだから」
「どういうこと? てっきりこの国の主は、お芝居を見てる方なのかと思ってた」
「あいつはこの世界を壊したくないだけなんだよ。この変わらない日常が好きでたまらないから、自らメガホンをとって役者を揃えて舞台を整えたの。
 そうやって楽しんでるんだけなんだ。誰も傷付かない、平和な世界をね。この国の主は、役者兼脚本兼監督ってところかな」
「それは一体何の為に……」
「おっと、あたしもそろそろ出番だから! じゃあね、旅人さん!」
「あの、最後に一つ聞きたいことが」
「何?」
「観客は一体誰なんです?」
 少女は僅かに黙って、答えます。
「……さあ、白いネズミとかじゃないかな」
 少女は駆けていきました。
 少女が見えなくなった途端、黒いドレスの少女達が怒りだし、キノ達は国外に追い出されてしまいました。
 仕方なく走り出すと、視界が濃い霧に包まれます。振り返っても、もはや何も見えません。
 慎重に道を進んでいくと、やがて霧が晴れ、見晴らしのいい荒野に辿り着きました。
「なんとか抜け出せたね」
「うん……でも、不思議な国だったね。食料と燃料がタダだったのは嬉しいし、食事も美味しかったけど」
「あれを見て楽しんでる観客はいないね。断言できるよ。あんな平和なだけの世界、面白いわけないって」
「それは人それぞれ、モトラドそれぞれだね」
「あんな何の変哲もない日常を楽しめる人がいるのかな……なんだか怖いね」
「だから、それはボク達が知らないだけで、主役の彼女達にはドラマが起きてるんだよ。観客もそっちを見て楽しんでるんじゃないかな」
「ところでキノ、女優になってみてどうだった? 主役になってみたいと思った?」
「そうだなあエルメス、ボクにはやっぱり役者は向いてないと思う。主役なんてもってのほかだね。白紙じゃない台本なんて、覚えられる気がしないよ」
 キノはエルメスを再び走らせ始めました。
 二人を見送る、白い体毛の観客がいたことには気付きませんでした。





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