141:猫宮
2013/01/14(月) 17:54:09.87 ID:OG1fw1mi0
けれど、それはやっぱり何かが違ってたのかもしれない。
卓越した技巧を持つキャサリンさん。
音楽的な才能を持つ憂ちゃん。
二人とも私の欲しい物を持ちながら、私が望んでいた道には進んでない。
多分、私が望んでいたものとは違う何かを大切にしているから、私と違う道を進んでるんだよね。
私は今、その何かを見たくて、キャサリンさんの姿を見つめている。
憂ちゃんの傍に居るんだ。
「……あれ?」
不意に私は考えていた事とは別の事を思い出した。
大した事じゃないのかもしれないけれど、気になり始めると止まらなくなった。
私はキャサリンさんの吹奏楽部の顧問としての姿を見たかったから、ここに居る。
吹奏楽部の顧問だって分かったのは、憂ちゃんが唯さんからキャサリンさんの話を聞いていたからだ。
つい最近、キャサリンさんが吹奏楽部の顧問になったって……。
あれ、おかしいなあ、計算が合わない……?
キャサリンさんが憂ちゃんのナビゲーターをしていたのは、つい最近の事のはずだよね?
うん、大体、二週間前くらいでよかったはず。
でも、憂ちゃんのナビゲーターをしてたのに、ちょっと前に軽音楽部の顧問になれた?
憂ちゃん以外の誰にも姿が見えない『石ころ帽子』を被った状態だったのに?
リレー方式で憂ちゃんがキャサリンさんのナビゲーターを引き継いでるはずだから、
少なくとも二週間以上前にはキャサリンさんが軽音楽部の顧問になってないとおかしい。
二週間以上をちょっと前と呼ぶかどうかは個人差があるだろうけど、
もっとよく考えたらキャサリンさんって唯さんの特訓をずっとやってたんだよね……?
顧問になるより何よりも、『石ころ帽子』の状態で唯さんの特訓なんて出来るはずがないじゃない……。
気になった私は憂ちゃんにそれを訊ねてみる事にした。
どうでもいい事なのかもしれないけれど、
心に引っ掛かりがある状態じゃ明日の学園祭に臨めないって思えたんだ。
明日の学園祭には、出来る限り何の悩みも無い素直な心で私は臨みたいんだよね。
憂ちゃんはその私の疑問の言葉を聞くと、
少し困ったような苦笑を浮かべながらも応じてくれた。
「詳しい説明を忘れてたみたいでごめんね、梓ちゃん。
実はね、チャンスシステムってリレー方式ではあるんだけど、
すぐにナビゲーターを引き継ぐ場合と引き継がない場合があるみたいなんだ。
前の人の『お願い』が叶うために時間が掛かる時とか、
次の『対象者』の人がすぐに見つからなかった時とかには、しばらく間が空く事があるんだって。
私がキャサリンさんにナビゲーターをしてもらってたのは、
二週間前じゃなくて、それよりもうちょっと前の夏休みの頃だったんだよ」
なるほど、と思った。
それならキャサリンさんが憂ちゃんのナビゲータをやってても、時期的に問題無いよね。
でも、やっぱり結構いい加減なシステムなんだなあ……。
次の『対象者』の人がすぐに見つからなかった時、って、
そんなに行き当たりばったりなの、『チャンスシステム』って?
まあ、憂ちゃんの叶えて貰った『一生に一度のお願い』が、
時間の掛かるお願いだったって可能性もあるにはあるけどね。
「そうなんだ……。
ねえ、ひょっとして、憂ちゃんのお願いってそんなに手間が掛かるお願いだったの?」
それは私の口から出た何でもない軽口だった。
いい加減な神様だか誰だかに対する苦言みたいな言葉で、深い意味は込めてなかった。
でも、その私の言葉を聞いた憂ちゃんは、何故だかとても困った表情を浮かべてしまった。
私、変な事を訊いちゃったのかな……?
憂ちゃんのお願いって、本当にそんなに手間が掛かる変わったお願いなの?
ううん、憂ちゃんがそんな変わったお願いをするはず無いし……。
私は自分の軽口に後悔しながら、黙り込んでしまう。
憂ちゃんも困った表情を無理に笑顔に変えようとしてる。
折角憂ちゃんと一緒に居るのにまた気まずくなっちゃってる……。
ああ、もう……、駄目だよ、私。
こんなんじゃ、駄目。
私が変な事を訊いちゃったのが原因なら、ちゃんと憂ちゃんに謝らないと……。
丁度、私がそう思った時……。
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