152:猫宮
2013/02/02(土) 18:45:28.04 ID:hf4xg+FT0
▽
「はい、いらっしゃいいらっしゃい!
安いよ安いよー!」
「この声……!」
まだ治らない嗄れた声が響き、澪さんがとても不安そうな声で呟く。
誰も居ない軽音楽部の部室から飛び出した澪さんの後を追って数分。
私と憂ちゃんは何度か立ち寄った事のある唯さんの教室に辿り着いていた。
勿論、偶然辿り着いたわけじゃなくて、
澪さんは最初からこの場所を目指してたんだろう。
不意に視線を向けて見た澪さんの表情はとても焦っていた。
それはそうだよね……。
さっきまで私と憂ちゃんは、軽音楽部の部室で皆さんが来るのを待っていた。
学園祭の出し物があるとは聞いていたけど、朝練くらいはするんじゃないかなって思ってたから。
だけど、待てども待てども、軽音楽部の皆さんは部室に顔を出さなかった。
ひょっとして練習やらないのかな……。
私が憂ちゃんとそんな話をし始めた頃、
やっとの事で澪さんが姿を現したんだけど、その時の澪さんの面食らった表情は凄く印象に残った。
不安と緊張と焦りが綯い交ぜになった表情。
澪さんと同じ立場だったら、私も同じ表情をしてしまってたんじゃないかなって思う。
ううん、きっとしてたはずだよね……。
だから、澪さんが他の部員の皆さんを求めて、部室から飛び出した気持ちは私にもよく分かる。
でも……。
「あっ、澪ちゃーん、焼きそば?
ちょっと待ってねー」
「何でそうなる……」
呻くように呟きながら、澪さんがテーブルに手を置いて崩れ落ちた。
それもそのはず。澪さんが教室に飛び込んでやっと見つけた一人目の部員……、
唯さんがお客さんに焼き立ての焼きそばを渡した後、澪さんに無邪気に微笑み掛けていたからだ。
こんなの私だって崩れ落ちてると思うよ……。
と言うか、唯さんのクラスの出し物って焼きそば屋さんなんだ……。
しかも、学園祭とは言え、唯さんはとても妙な恰好をしていた。
何て言ったらいいのかな……?
服自体は一緒に焼きそばを焼いてるクラスメイトの人と一緒なんだけど、
何故か唯さんだけ黄色いマフラーを巻いて、紫色のアフロのかつら(かな?)を被ってるんだよね。
例えるなら関西のおばちゃん……みたいな感じになるのかも。
そう例えたら、関西のおばちゃんの人に怒られるかもしれないけど……。
と。
私は不意に思い立って、隣の憂ちゃんに視線を投げ掛けてみた。
お姉さんの事が大好きな憂ちゃん的にこの唯さんの恰好はどうなのかな、って思ったんだよね。
憂ちゃんは私の視線に気付いた様子も無く、とても嬉しそうに唯さんを見つめていた。
あ、憂ちゃん的にはこういう恰好の唯さんもありなんだね……。
と言うより、学園祭当日に緊張する事も無い、無邪気な唯さんの姿を嬉しく思ってるのかも。
憂ちゃんはそれくらい唯さんの事をいつも大切に思ってる子だもん。
でも、私の心中はまだそこまで穏やかではいられない。
唯さん達の事は信じてるけど、息が止まりそうになるくらいの緊張はまだ時たま感じてる。
もうすぐ唯さん達の学園祭のライブが始まる。
出来る事なら唯さん達の失敗のライブは見たくない。
失敗してほしくない……。
それが偽らざる私の本心。
どちらかと言えば私に近い感性を持ってるんだろう。
澪さんが机に手を置きながら、唯さんに向けて上目遣いの視線を投げ掛けた。
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