155:猫宮
2013/02/02(土) 18:54:10.49 ID:hf4xg+FT0
「大丈夫だよ、憂ちゃん」
憂ちゃんの顔を覗き込んで、自分に出来る精一杯の笑顔を見せた。
憂ちゃんが落ち込んだままの顔を私に向ける。
私は笑顔を崩さず、私達の存在に気付かずに微笑んでいる唯さんを指し示した。
「ほら見て、憂ちゃん。
唯さん、笑ってるよ。
ブレーカーが落ちた事なんて気にしてないみたいでしょ?
それどころか何だか楽しそうにも見えるし……。
だからね、憂ちゃんも気にしなくていいんだよ」
「で、でも……、
私がお姉ちゃんに迷惑掛けちゃったのは確かだし……」
「ねえ、憂ちゃん?」
「な……、何?」
「唯さんって憂ちゃんが失敗した時、怒っちゃう人じゃないよね?
話した事も無いけど、見てたら私にも分かるよ。
唯さんは憂ちゃんが何かを失敗した時にも、許してくれる人だって事くらい。
ううん、唯さんは憂ちゃんの失敗を笑顔で受け容れてくれる人だと思う。
憂ちゃんがいつも一生懸命だから、笑顔で受け容れてくれるんだよ、きっと。
だからね、私も……」
私も憂ちゃんの事を信じられるんだよ。
流石にそれは口に出しては伝えられなかった。
今はそれを伝えるべき時じゃないと思ったから。
でも、心の中では強くそう思ってた。
憂ちゃんはいつも一生懸命だった。
お姉さんのためにも、私のためにも、一生懸命になってくれた。
だから、私は憂ちゃんが大好きな唯さんの事を信じられるんだ。
唯さんも憂ちゃんの事が大好きなんだって。
だからこそ……。
「大丈夫だよ」
不意に教室の中に優しい言葉が響いた。
私の言葉じゃないし、憂ちゃんの言葉でもなかった。
声がした方向を確かめるまでもない。
もう聞き慣れ始めた掠れたハスキーボイス……、唯さんの声だった。
私と憂ちゃんはちょっと驚いて唯さんの横顔を見つめる。
ひょっとして私達の存在が見えているのかも、って思えたから。
でも、勿論、そんな事があるはずも無かった。
「大丈夫だからね、澪ちゃん」
もう一度、唯さんが優しく呟く。
その呟きは私達じゃなくて、澪さんに向けたものだったらしい。
気が付くと澪さんはいつの間にか教室の中から居なくなっていた。
きっと律さんか紬さんを練習の誘いに行ったんだろう。
つまり、唯さんの呟きはここに居ない澪さんに向けられた呟きだったんだ。
他の誰にも届かないはずの唯さんの呟き……。
でも、そう呟いた唯さんの横顔は優しくて、胸が詰まりそうになるくらいに優しくて……。
いつの間にか憂ちゃんは笑顔になっていた。
私もきっと今まで以上の笑顔になった。
澪さんの不安は分かる。
分かり過ぎるくらいに分かる。
でも、不安を抱えながらでも、澪さんにも分かってほしい。
澪さんを想ってくれている人がここに確かに居るって事を。
私が信じる憂ちゃんが大好きな唯さんが、
澪さんをこんなにも大切に思ってるんだって事を……。
憂ちゃんと視線を合わせる。
憂ちゃんはもう瞳を潤ませてはいなかった。
私だってこの学園祭が終わるまでは泣かないでいよう。
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