過去ログ - 梓「サナララ」
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184:猫宮[saga]
2013/02/26(火) 05:24:59.37 ID:W44uIBOk0
私の言葉に、憂ちゃんが困った感じの苦笑を浮かべる。
反論しなかったのは、憂ちゃん自身もそう感じていたからだと思う。
今日のライブはとっても素敵なライブだった。
でも、完璧なライブだったわけじゃない。
澪さんがこけてしまったトラブルは仕方が無いにしても、
唯さんの嗄れた声のコーラスだけは言い訳出来ないくらい浮いていた。
『ふわふわ時間(タイム)』の旋律が甘くて爽やかなだけに特に際立って……。
完璧なライブと呼ぶには程遠い唯さん達の初ライブ。
成功ではあったけど、細かい所では失敗しちゃってる初ライブだったんだよね。

だけど、憂ちゃんは私の見たかった……、
私の大好きなとびきりの笑顔になって続けてくれた。


「でも、お姉ちゃん達、すっごく楽しそうだったよね!」


それは唯さん達の弁護のためでも、
私への誤魔化しのためでもないまっすぐな言葉。
憂ちゃん自身が本気でそう思ってる、って事がよく分かる言葉だった。

うん、そうだよね。
照れ隠しに憂ちゃんにちょっと意地悪しちゃったけど、本当は私だってそう思ってた。
そう思ってたからこそ、私は憂ちゃんと同じに笑顔を隠し切れなくなっちゃうんだよね。
溢れ出す笑顔をまた止められなくなる。
だから、私はまた笑顔になって、憂ちゃんに向けて力強く頷いた。
もう胸の高鳴りを無理に沈めようともしなかったし、したくなかった。


「楽しそうだったよね、唯さん達……」


呟きながら、まだ余韻の残るさっきのライブの事を思い出す。
今日の学園祭を唯さん達は心から楽しんでた。
初ライブだけじゃなくて、多分、演奏するまでの全ての事を。
お化け屋敷の準備、焼きそばの出店、荷物運び、
キャサリンさんが用意した衣装でのコスプレ、MCの練習……。
初めての学園祭を楽しみ切ろうって様子で、たくさんの事を全力で。
だから、皆さんはあんなに楽しそうだったんだよね。
固さと緊張こそ解けなかったけど、あの澪さんまで最後には少し楽しそうに見えたくらいに。

ああ、そうなんだよね……。
もうはっきりと自覚出来るよ。
私が本当に欲しかったものはやっぱりこれだったんだって。
私は一緒に笑い合えて楽しみ合える仲間が欲しかったんだ。
例え色んな失敗をしちゃったって、今日の唯さん達みたいに全てを楽しめる仲間が。
そのために必要なのが音楽の才能なんだって、私は勝手に思い込んでた。
才能が無い、周りから認められない音楽を続けてたって意味が無い。
大した実力も無しに音楽を楽しむなんて、やっちゃいけない事なんだって。

今考えてみると、私はただ、将来に誰からも認められなくなるのが怖かったんだと思う。
私は自分の性格にそんなに自信が無い。
あの子とだって親友になるまで長い時間が掛かった。
面倒で可愛げの無い性格だって自分でも思う。
だから、音楽の才能っていう、別のものを求めちゃってたのかもしれない。
音楽の才能があれば、私の性格に難点があっても、皆が付いて来てくれるかもしれないから。
どんな事があっても、皆と音楽を続けられるかもしれないから。

本当はそういう事じゃないのに。
皆と……、あの子と音楽を続けたいんだったら、
どんなに才能が無くても、あの子と話し合うべきだったのに……。
それが私の犯しちゃった失敗なんだよね……。

自分の心臓の鼓動が早まっていくのを感じる。
勿論、それはあの子との事を考えて、辛い気持ちが湧き上がって来るから。
後悔と悲しさが湧き上がってくるから。
だけど……、でも……。
私にはそれ以上に心臓が早く動いちゃう理由があるんだ。

今、この時、私の目の前にいる女の子。
私と同い年なのに、同学年なのに、私よりずっとしっかりしてて、
可愛くて、優しくて、私の事を大切にしてくれる、私に前に進む勇気をくれた女の子。
憂ちゃんが傍に居てくれたから。
傍で笑っていてくれたから。
私は勇気を出して我侭を言わないといけない。
もうすぐ来る、別れの前に。


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