185:猫宮[saga]
2013/02/26(火) 05:25:54.78 ID:W44uIBOk0
「ねえ、憂ちゃん……?」
喉がカラカラに渇いて、泣き出しそうなくらい緊張するのを感じながら声を出す。
大した事を言うつもりじゃないのに、胸が痛いくらいに心臓の動悸が激しくなる。
「何、梓ちゃん?」と憂ちゃんが笑顔で首を傾げる。
優しい憂ちゃんの笑顔が私を包む。
その笑顔がまた私の気持ちを一歩進めてくれた。
「『一生に一度のお願い』の日までにね……、私、やりたい事があるんだ」
「やりたい事……?」
「うん、実はね、私……」
大きく深呼吸。
本当は怖い。
憂ちゃんにそれが断られる事がじゃなくて、自分の無力を思い知らされる事が。
才能が全てじゃないって分かり掛けては来たけど、それでも、やっぱり……。
弱くて悩んでばかりの私がそれを受け止められるのかって。
だけど、もう私達には時間が残されてなかったし、それ以上に私は変わりたかった。
憂ちゃんとのこの一週間はもうすぐ終わる。
システムのルール通りなら、きっと今日まで起こった全ての事は記憶に残らない。
何もかも忘れ去ってしまうはずだ。
だったら、これから私がしようとしてる事には何の意味も無い……?
ううん、そうじゃない。
そうじゃないって信じる。
もうすぐ忘れてしまうとしても、今この時に勇気を出そうと思えた事だけは真実だと思いたいから。
信じたいから。
私は精一杯の勇気を出して、想いを言葉にするんだ。
「憂ちゃんと……、セッションしてみたいんだよね。
二人でギターで、『ふわふわ時間(タイム)』の……」
「えっ……?」
私の言葉を聞いて、憂ちゃんが驚いた表情を浮かべる。
それはそうだと思う。
憂ちゃんには凄い才能があるけれど、憂ちゃん自身はそれにまだ気付いてないはずだもん。
そんな状態でセッションだなんて言われても、戸惑って当然だよね。
それは分かってるけど、私は憂ちゃんのギターの本当の腕前を知りたかったし、
それよりも何よりも、二人で『ふわふわ時間(タイム)』をセッションしてみたかった。
私と憂ちゃんを繋いでくれた軽音楽部の皆さんの曲。
私に大切なものを見つけさせてくれた『ふわふわ時間(タイム)』を。
残された時間で完璧な演奏が出来るなんて考えてない。
きっと出来の悪い演奏になっちゃうはずだと思う。
それでもいいんだ。
残された時間、私は憂ちゃんとそうして過ごしたいと思ったんだもん。
私は戸惑った表情の憂ちゃんの両肩に手を置いて、真剣な眼差しを向ける。
完全に私の単なる我侭だけど、それでも憂ちゃんと一緒だから、
憂ちゃん相手だからこそ、言いたくなった我侭だって事を分かってもらうために。
「いきなりこんな事を言われても困っちゃうのは分かるよ、憂ちゃん。
自分でも変な我侭だって思うよ、正直……。
でも……、でもね……、私、憂ちゃんと演奏してみたいの。
分からない所があったら私が精一杯教えるから……!
だからね……!」
「あの……、えっと……」
「と言っても、私にも耳コピは無理なんだよね。
だからね、今から私、軽音楽部の部室に行ってくるよ。
勝手にだけど、楽譜をコピーさせてもらって、それを見ながら憂ちゃんと練習したい。
『一生に一度のお願い』を願うその寸前までそうしたい。
もしも……、もしも憂ちゃんが……よければだけど……」
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