98:猫宮[saga]
2012/11/16(金) 19:18:27.37 ID:hyTDBNXf0
「私だって……、本気なんだよ……」
本気なんだ。
誰よりも夢に本気なつもりだった。
本気だから、この子が練習の中断を言い出した時は辛かった。
凄く悔しかった。
私の目指した夢はそんな事に邪魔されてしまうの?
私の選んだ道はそんなに小さな障害で躓いてしまうものだったの?
本当はそう言って詰め寄りたかった。
この子と離れ離れになんかなりたくなかった。
だから、あの日から私はこの子を……。
唇を強く噛んで、拳を握り締める。
駄目……。
泣いたりしちゃ駄目……。
まだ泣いちゃ駄目だよ、私……。
私は真剣な表情のこの子の横顔を見ながら必死に胸の痛みに耐える。
どんなに胸が痛くても、どんなに泣き出したくても、まだそれは駄目なんだ。
今日はそれを確かめに来たんだから。
私達の夢の辿り着く先を確かめに、こんな最低な事までしてここまで来たんだから。
だから、まだ私は泣いちゃいけない。
涙を堪えないといけない。
私は大きく溜息を吐いてから、勉強を続けるこの子の学習机に近付いていく。
この子の勉強の内容を確認するためじゃない。
この子の表情を身近で確認するためでもない。
私が確認したい物はもっと別な物だ。
私が今からする事はもっと最低な事なんだ。
震える腕を動かして、私はこの子の学習机の一番上の引き出しを開く。
勿論、この子は私の行動には気付かない。
それは私が憂ちゃん以外には視認されない姿になってるからでもあったけれど、
ひょっとすると、そうじゃなくてもこの子は私の行動に気付かなかったかもしれない。
それくらいこの子は勉強に真剣だった。
私はそんなこの子を眩しくも辛くも思いながら、机の引き出しの中を探る。
自己嫌悪に吐きそうになってしまいながらも、目当ての物を必死に探す。
「……あった」
目当ての物は案外と簡単に見つかった。
それを手に取った時、私は自分の息が荒くなってしまってるのに気付いた。
あった……。
やっぱりあったんだ……。
あの子は練習の中断を申し出て以来、私に何度も話し掛けようとしてた。
私はその申し出からずっと逃げてた。
申し出を受けてしまったら、これを手渡されてしまう、って心の何処かで分かっていたから。
この便箋の中にある手紙を……。
便箋には『あずさへ』と記してある。
この子の私に宛てた手紙がこの便箋の中に入ってる証拠だった。
この子は手紙を書くのが好きだった。
口にすればいい事でも、授業中でも、何度も何度も私に手紙を回した。
遊びの誘いですら、手紙に記していた事だってよくあった。
それくらいこの子は手紙が好きだったんだよね。
だから、この子はきっと私への気持ちを手紙に記してるはずだって思ってた。
躊躇う。
手の先が震える。
こんな事をしても何にもならないって、私の中の冷静な私が大声で叫ぶ。
きっとその通りなんだって事は頭では分かってる。
でも、心では納得出来てない。
納得出来ないから、納得させられないから、私はここまで来たんだから。
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