過去ログ - テッラ「困りましたねー」フィアンマ「言う程困ってもいないだろう」
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26:昔の話  ◆2/3UkhVg4u1D[saga]
2012/07/24(火) 01:38:22.17 ID:+WWkJClF0

産まれた時、俺様はまだ、いたって普通の子供だった。
確かに性器が男女両方のものがある(=両性具有)だとか、そういう点では異常だったのかもしれないが。
身体的な欠陥点以外は、普通の子供だと思っていた。
その身に『世界を救える程の力』を内包しているとも、その身が『千年を生き続ける化け物』だとも知らずに。
周囲もそれを知らなかったから、盲目で産まれてきた子のように、少々過保護ながらも、普通に扱ってくれた。
両親は居なかった。母親が俺様を胎に宿している間に父親が不慮の事故で死に、母親は俺様を産むと同時に死んだ。
そもそも子供を産むのに耐え切れないと、そううっすらわかっていたにも関わらず産んだのだから、致し方ないというべきか。
だからといって悲劇の主人公ぶるつもりもなく、周囲の暖かな環境の中で、俺様は育てられた。
勉強もさせてもらえたし、お陰で字もちゃんと読める。
転機が訪れたのは、二十歳の時。周囲の子供より、遥かに発育が悪かった。
小柄、とはまた違い、歳をとっていないように見られた。
俺様の住んでいた村は、オカルト信仰が強かった。故に、俺様は化け物なのだろうという扱いを受けた。
実際、化け物だったのだから笑えない。
災いを恐れた村の老人達は、何度も謝りながら俺様を閉じ込めた。
簡単に言うと座敷牢のような場所。まるで現人神のような扱いを受けながら、長く過ごした。
やがて、そこに居る事にも飽きた俺様は、魔術を学ぶ事にした。
オカルトについて様々な文献を授けてくれる静かな環境で、何ら問題は無かった。


時代は変わり、ローマ正教へ身を寄せる事にした。
村で俺様の素性を知っているものは、いつしか誰一人居なくなっていた。
ローマ正教に入信し、神父となり、と同時に魔術師にもなった。
今は使っていない魔法名。世界を恨む言葉。

『神の右席』が発足した時、その時代で『神の如き者』の素質があったのは俺様だけだった。
故に、抜躍された。ひとまず揃えられたのは『右方』から。
『右方』、『前方』、『左方』、『後方』という順に決まっていった。
最初は教皇の相談役や雑用をやっていた。
ただ、問題が頻発し、その度に頼られ、泣きつかれ。
次第に『神の右席』の権力が高まっていった。教皇以上の地位へと変貌した。
戦争や病で死ぬ人間を見ながら、化け物だと時折罵られつつ生きる内に、いつしか俺様は『壊れて』しまった。
自覚があっても、そう簡単に直せるものでもなく。ただ、怠惰の罪にでも耽るように。
生き続ける間、『右方』以外の中身は入れ替えられていった。大概は中身の死亡によって。
俺様はどこまでいっても孤独だと察した。もう、それで構わないと。
そんな折、外に出た。その時の『前方』に何かほしいものはあるかと聞き、財布を借り受け。
そして、気まぐれを起こした。哀れな、スリをしてまで必死に生き延びようとする子供を、救ってやろうと思ったのだ。



救った子供は大人となり、『左方のテッラ』の座についた。
私の事を覚えていますか、と泣きそうな顔で問いかけられた。
覚えているよ、と小さく笑った。
大人になったあの日の子供は、俺様を愛しているのだと告げてきた。
どうせ、俺様を置いて逝くくせに。

『俺様は、人を愛せるかどうか分からない。今まで傷つけられ、喪い続けてきた。一生お前に対して振り向かない、振り向けない恐れの方が大きい。その事を重々承知の上で、それでも俺様を好きでいてくれるか。好きでいるというのか。いつか、ほんの少しばかりしか、お前の想いに応えられる可能性の無い、こんな人間を』
『構いません。貴方がどんな方であれ、私の想いは変化しません』
『そうか』
『はい』

ほんの少しだけ、期待をしてみようかと思った。
こんな浅薄な感情ばかりの、どうしようもない心でも、この子に切り売りできるなら。
只の人間だったのなら、きっと俺様は普通に想いに応えてやれるのに。
嬉しいと、素直に心から思えた筈なのに。
代わりに、今でも甘える事しか出来ない。寄りかかる事で、信頼を表現することしか。
ただ、それが信頼なのか、信用なのか、自分でも把握出来ない。
どうすれば良いのか。

ただ、お前と一緒に居ると、心地が良いんだ。苦しくないんだ。
もう少しだけ。








…もう、少し。
傍に居て欲しい思うのは、悪い事なのだろうか。


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