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2012/07/24(火) 11:38:59.19 ID:d42ujU9K0
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美琴が四歳五歳といった年頃。
扇風機は必要ない過ごしやすい夏の夜のことだ。
やさしい風が頬に気持ちいいだろうと 涼みを兼ねて部屋から出たベランダには、立派な笹飾りがあった。
父が珍しく日本に戻って来た時に、たまにしか会えない娘のご機嫌の取りの手段として
「美琴ちゃ〜ん。おみやげだよー!」 と上擦ったテナーボイスと共に美琴に送られたもの。
笹の葉の重なる音が響く。
カサリカサリと乾いた掠れの音に誘われるままに視線を動かし「ソレ」が視界に入るや否や、美琴は眉をしかめる。
『あまのがわをママとパパとみことでみれますように。 みちかみこと』
短冊に書かれた字は所々ガタガタでミミズのようにうねっていて、「さ」の部分が「ち」になっている。
覚えたての、生まれたての文字。
お昼は幼稚園の先生と一緒に、夜は母 と一緒に。
練習して練習して練習してようやく美琴が取得した(と本人は思っているが、まだ完璧ではない)というのに。
流れ星も天の川も美琴の囁かな願いを聞き入れず、とうとう七夕当日を迎えてしまった。
「お星さまが美琴ちゃんの願い事をか なえてくれるんだぞ!」という父の言葉を信じなければ良かった。
少女の頭の中を例えようのない不平不満がぐるぐると駆け巡る。
「大人の事情」という、子供ならば避けては通れないこの世の理不尽さを口を膨らませながら噛みしめる。
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