過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
↓ 1- 覧 板 20
112:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 22:33:28.97 ID:4DOG5YTr0
光が消える。
倒れた私に、特に大きな傷は付いていない。
榊原君も、杉浦さんに刺されたところ以外に、出血は見られない。
赤沢さんは・・・
赤沢さん。
立っていた。
躰全体が、これ以上ないくらい鮮やかな紅に染まっている。
壁に打ち付けられたまま、硝子の破片が体の至る所を貫いていた。
その姿は立ち往生とはまた違う、
これは、十字架に磔にされたイエス・キリストのような・・・
「ああっ・・・」
息を呑んだ。
『人形の目』に映ったもの。
あの忌まわしき『死の色』が赤沢さんを覆い尽くしていた。
『死の色』
どんな絵具や染料を使って混ぜ合わせてもできない、
この世に決して存在しないような色・・・
それは実際に死んだ人や、瀕死の重体の人に見える呪われた色。
幼い頃に何度も目にして、それを見るのに耐えられず、
私は眼帯を付けるようになった。
そして四ヶ月前、家に泊まりに来た未咲にも『死の色』が見えた。
なぜ、元気な未咲に『死の色』が・・・
未咲が観覧車から落ちそうになった時、私は観念した。
けど、この時は奇跡的に未咲は助かった。
これで未咲は災厄から逃れられた・・・・
そう思った矢先、未咲は突然に病に倒れ、
信じられないほど呆気なく命を落とした。
『死の色』が見えるからって、死を未然に防げるわけでもなく、
もうすぐその人が死ぬを、黙って見届けるしかない。
「こんなものがあっても、何の役にも立たない。
未咲一人すら、救えない・・・!」
未咲が死んだ晩、私は鏡に映る自分の左目を呪った。
怒りにまかせて鏡に拳を叩きつけ、私はその場で泣き崩れる。
もう一人の私、短い命だった可哀想な私の半身。
藤岡の家は貧しいけれど、私の分まで幸せな生活を送っていた未咲が、
なぜ、こんな目に遭わなければいけないのか・・・
私が3年3組になったばかりに、未咲が災厄に巻き込まれて死んだ。
いや、こんな馬鹿げた呪いのせいで未咲が死ぬなんて、信じられない。
信じたくもない。
その晩から、『人形の目』じゃない本当の右目に映る世界は、
『死の色』ではないけど、どこか色褪せたものに感じられた。
私を時々からかったり、困らせたりしたけど、
いつも笑顔で微笑んでくれた、あの未咲はもういない・・・
そんな世界に、興味も関心も無かった。
154Res/348.26 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。