過去ログ - 春香「ねぇプロデューサーさん?」
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2012/08/22(水) 22:49:39.97 ID:zi9nDhH8o
【魅力的な話】
春香がゲストとして招かれたラジオ番組の収録を終えて、事務所へと戻るその車中。
珍しくスタジオを出てからずっと黙り込んでいた春香は、流れる車窓をボンヤリと見つめながら言った。
俺はというと、前の車に乗った黒髪女性の顔をどうにかして見てやろうと、
女性の額ばかりを映すその軽自動車のルームミラーを、テレパシーでも送るように凝視していた。
まさかその姿を春香に見られていて、ジト目を向けられているんじゃないだろうか……。
安全運転の合間を縫って、ちらりと助手席へ視線を移してみる。
春香は俺の被害妄想癖にはまったく気付いていないようで、いまだに頬杖を付いて外を眺めていた。
「なんだ?」
視線を前方に戻して春香に答える。
春香はきっと沈黙に耐えかねて、何か適当に話題を振るつもりで声をかけたのだろう。
その証拠に俺の顔は一切見ることなく、一貫して外ばかりに顔を向けている。
大した話題を持ち合わせずに話しかけたことが誰の目にも明らかだった。
……などと勝手な解釈で自己解決していたのだが、次の瞬間春香は、
ピンを抜いた手榴弾を投げつけるかのように、物凄い話題を持ちかけてきた。
「一体いつになったら、小鳥さんにプロポーズするんですか?」
「はぁ!?」
一応アイドル達の歌声の変化などに気付くことができる程度の耳をしているが、
今まで生きてきた中で、初めて自分の耳を疑った瞬間だった。
こちらに顔を見せぬまま、動きの変化をせずに言い放った春香の言葉に、
一瞬にして黒髪女性の素顔などはどうでもいいものとなった。
「言ってる意味がよくわからないんだけど?」
「意味って……そのままの意味ですよ」
ようやく春香はこちらを向いて、亜美真美得意の悪戯っ子スマイルを浮かべる。
あの二人なら考えが幼い分、上手い具合に受け流すことが出来るのだが、
相手はあざといやら白々しいやら、散々言われ続けたあの天海春香。
『そのままの意味』というのが一体どのままの意味なのか分かりかねない。
「俺は春香とそんな約束を交わした覚えはないぞ」
「でしょうね、私もそんな約束はした覚えはないです」
「だったら俺が小鳥さんにプロポーズする理由も無いわけだ」
春香にバレないようにボイスレコーダーや隠しカメラの類を一通り探し、
後続車や併走車の中に見慣れた人物が居ないか確認する。
それらが見つからず、ドッキリ企画でないことが分かったところで、
俺は『もうこの話は終わりだ』というニュアンスを十二分に含ませて春香に告げ、
話している間に開いてしまった車間距離を埋めるべく、少し強めにアクセルを踏んだ。
しかし春香はそうやって話を流そうとした俺にブレーキをかけた。
「本当に理由……無いんですか?」
「な、無いよ」
「じゃ聞きますけど、小鳥さんのことどう思ってます?」
「どうって………」
なおも食い下がる春香に多少の面倒臭さと多少の苛立ちを感じながらも、
噂話の種にされて、今頃豪快なクシャミをしているであろう小鳥さんの姿を想像し、
彼女に対して俺が持っている印象や、それに伴って発生する感情を引っ張り出してみた。
「そりゃー小鳥さんは素敵な人だよ。 いつも笑顔で仕事をしてるし」
「その笑顔って妄想してヘブン状態になってるだけじゃ……」
「いやいや、それもまた一興なんだよ」
そういうどうしょうもないところや、大人になりきれてないところも含めて、小鳥さんは素敵な人だ。
アイドル達には反面教師にしかならないほど、本当にどうしようもないところもあるけど………。
幸せを追い続けるも、それを手にすることが出来ないと悩み、嘆き、諦めつつあるところすら魅力的に思えてくる。
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