過去ログ - 春香「ねぇプロデューサーさん?」
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36:1/4[saga]
2012/08/24(金) 00:44:49.36 ID:+gymnPO2o
【どんがる、アイドル】
この階段を上がるとき、今まで何通りの自分があったのだろうか?
初めて上がるときは、新たな環境に飛び込むことに対しひどく緊張していた。
ある時はプロデュース業が上手くいって二段飛ばしで駆け上がったこともあったし、
またある時は、何か手痛い失敗をして意気消沈の有様で、
一段、また一段とテンションが落ちていくこともあった。
よりにもよって階段で転びそうになった春香を守り、蒲田行進曲状態になった時には、
意識を失う寸前に春香のパンツをしっかりと目に焼き付けることができ、
とても人様に見せられないような、緩みに緩んだニヤケ面でぶっ倒れていた……らしい。
そして今日は決意と不安と緊張の入り混じった奇妙な感覚を抱いて、この階段を登る。
しかもこれは今まで生きてきた中で、一度も出会ったことのない感覚だった。
「まさかこんな日が来ようとは……」
異性を食事に誘うくらいで何をヘタレなことを……と、誰しもが思うかもしれない。
しかし俺にとっては、有名ディレクターにタメ口を叩くくらい、勇気がいることなのだ。
階上の事務所で仕事をしている小鳥さんは、俺がこんな気持ちでいることなんて知らないだろう。
こうして重くなった足を懸命に上げて、13階段を上っているなんて。
ついに階段を上りきり、俺の目の前には年季の入ったアルミのドアがある。
ドアノブに手をかける前に、緊張を解きほぐそうと一つ大きく深呼吸をしてみた。
…………状況は変わらず、それどころかその深呼吸でさえ震えている。
いつも春香に緊張するなと言っておきながら、肝心の自分はこのザマだ。
誰でもいいからハイタッチをするか、拳と拳を合わせてくれないだろうか?
そうすればこの緊張も少しは和らいでくれるかもしれない。
「普通に……自然に……平静を装って……」
自己暗示でもかけるかのように、ブツブツと呟きながらドアノブに手をかける。
銀色に光るそれはひんやりと冷たく、幾分手の震えが治まったような気がした。
「お、おつかれさまです!」
「わわっ!」
ドアが反対の壁にぶち当たるほど勢い良く開け、事務所に向かって挨拶をする。
決心と勇気の空回りが声を裏返らせ、その音量を大きくさせた。
あまりの大声に身体をビクリと跳ね上げ、驚愕の表情で俺を見る小鳥さん。
そして興奮気味に肩で息をしつつ『不器用 引きつり笑顔♪』を振りまくプロデューサー(俺)。
なんとも奇妙で間抜けで、小っ恥ずかしい帰社風景である。
「すみません、びっくりさせちゃいました」
「い、いえ……おかえりなさい」
そう言って小鳥さんはいつものように、ニッコリと微笑んだ。
かと思えば、数度ほど首をかしげてみせた。
「プロデューサーさん、春香ちゃんは?」
「あぁ、すぐそこのコンビニです。 何か買うものがあったみたいで」
もしかすれば春香は、俺が小鳥さんをご飯に誘いやすいようにと、
事務所で二人きりになれるように気を利かせてコンビニにいったのかもしれない。
とはいっても今日事務所には小鳥さん以外に律子が……律子が…………あれ?
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