84:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 20:44:16.68 ID:bOaug2Ec0
そしてまったくその振子の音のたえまを遠くの遠くの野原のはてから、かすかなかすかな旋律が糸のように流れて来るのだった。
「新世界交響楽だわ。」
姉がひとりごとのようにこっちを見ながらそっと言った。
全くもう車の中ではあの黒服の丈高い青年も誰もみんなやさしい夢を見ているのだった。
男(こんなしずかないいとこでおれはどうしてもっと愉快になれないんだろう。
女だっておれを笑わせようと努力してくれてるのに。
このままじゃいけない。もう小さいころのおれじゃないんだから、
ひとりでも立ち直れるようにならないと。)
男はまた窓枠から身を乗り出して、火照った顔に風を当てようとした。
そこで汽車が止まっていることに気づいて、早く動けと男は願った。
すきとおった硝子のような笛が鳴って汽車はしずかに動き出し、
女もさびしそうに口笛で真似しながらずっと男のことを見ていた。
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