過去ログ - ビッチ
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149:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/09/16(日) 00:58:11.24 ID:g/BzIvsyo

 電車を降りてナオの家の方に向かっている間中、僕は黙ってナオの先に立って歩いてい
た。

 これではさっきナオをピアノ教室に迎えに行った時と同じだ。そしてさっきはナオの理不
尽な怒りに頭がいっぱいだったのだけど、今のこの感情はナオには責任がないことはわ
かっていた。ただ形容しがたい寂しさが僕の中にあるだけだった。

 これは理不尽な怒りだ。ナオには何も責任はない。ナオは僕に誘われて兄友たちと会い
社交的に彼らと話しただけだ。

 これでは怒りと言うよりも相手にされなかった子どもが拗ねているのと同じだ。

 僕の脳裏に今まで思い出すこともなかった記憶が蘇った。

 母親がいない夜。

 自分も半泣きになりながら、誰もいない家に怯え抱きついて泣いていた妹を抱き締めた僕。
夜中になってようやく帰宅した酔った母から漂う香水とお酒の混じったように匂い。

 珍しく父が家にいる時の団欒。父がいるだけで普段の陰鬱な夜は姿を潜め、母も妹も上
機嫌で父の喋るつまらない冗談に笑いさざめく。

 でも僕には両親が離婚前の記憶はないはずだった。何でこんなにリアルにこんな情景が
浮かぶのだろう。それに僕には義理の妹の明日香がいるだけだ。実の妹がいるなんて聞い
たこともない。

 突然脳裏に押しかけてきた圧倒的にリアルな悪夢を頭を振って追い払った時、ナオが僕
の背後から不安そうな声で僕に声をかけた。

「あの。ナオトさん何か怒ってますか」

 おどおどとしたナオの震え声を聞いた途端、突然僕の心が氷解した。僕は振り返ってナオ
に手を差し伸べた。ナオが僕の手をそっと握った。

「ごめん。ナオちゃんがあいつらとずっと楽しそうに話していたし、僕は君とあまり話せな
かったんで少しだけ嫉妬しちゃったかも。僕が悪いんだよ」

 その時ナオは少しだけ怒ったような、それでいて少しだけ嬉しそうな複雑な表情を見せ
た。

「あたし、ナオトさんのお友だちと仲良くしてもらって嬉しくて」

「うん、わかってる。僕が勝手に君に嫉妬したんだ。本当にごめん」

 ナオは僕を見つめた。

「あたし、兄友さんと女さんとお話できて嬉しかったですけど、やっぱりナオトさんと二
人きりでいたいです」

「そうだね。今後は二人でカラオケ行こうか」

「はい。今度はナオトさんの歌も聞かせてくださいね」

 ナオはようやく安心したように僕の腕に抱きついて笑った。


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