過去ログ - ビッチ
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240:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/10/02(火) 00:03:01.39 ID:HzCbppwJo

第三章 有希


 あたしはもっと真面目にならなければいけない。

 両手いっぱいに買物の袋を持たされてよろよろと歩いている兄貴をからかいながら、夕
暮れの住宅地を抜けて帰路に着いたあたしは今の麻痺しそうなくらい幸せな感情を無理矢
理押さえつけようとした。

 昨日の夜、心からくつろいでいる様子の兄貴を小さな心の痛みとともに眺めながら、あ
たしは兄貴を守ることを改めて心に誓ったのだけど、その決心は意識して保とうとしない
とすぐにどこか見えないところに飛んで行ってしまいそうだ。そしてその決意を忘れたあ
たしはパパや玲子叔母さん、それに兄貴との会話に素直に加わって楽しんでしまうのだっ
た。

 昨夜兄貴のベッドに潜り込んだことだってそうだ。冷静に兄貴を救うため、兄貴をあた
しの方に振り向かせるためにそうしたのだったらいいけど。

 自分に正直になってみると昨日のあれはそうじゃない。

 玲子叔母さんがあたしを起こさないようにしながら一緒に寝ていたベッドから起き上が
って、そっと階下に下りていく足音。

 既に出社の準備を終えてリビングにいたパパと玲子叔母さんが低い声を交し合っている。
そのうちパパと玲子叔母さんは連れ立って家を出て会社に向って行った。

 昨夜が楽しかった分だけ一人でベッドに横になっているのは辛かった。そして普通の妹
なら兄の部屋に忍び込むなんて発想もしないだろうけど、自慢じゃないけどあたしには前
科がある。

 兄貴を陥れようと画策して兄貴のベッドに潜り込んだことのあるあたしにとっては兄貴
の部屋にそっと入り込むなんて慣れたものだった。

 寂しさに負けてあたしはそっと兄貴のベッドの横に立って兄貴の寝息を注意深く伺う。
兄貴の呼吸が安定していて多少のことでは起きないだろうと確信を持った時点で、あたし
は兄貴がかけている毛布の端をそっと持ち上げてベッドに入り込む。

 今ではもう兄貴を陥れようとは思っていなかった。

 今のあたしは兄貴を救うという目的ができたのだ。しかも洒落ではなく目前に迫った危
機を何とか回避するために。

 でもあたしにとってはどちらが罪なのだろう。

 昨夜のあたしは兄貴のことを誘惑しようとして兄貴のベッドに潜り込んだわけではなか
った。むしろパパと玲子叔母さんの不在から生じた寂しさを兄貴に紛らわせてもらいたく
てそうしたのだった。

 あたしにとってどちらの方が罪なのか。

 兄貴を誘惑するために意識的に兄貴のベッドに入り込み、兄貴の歓心を買い、兄貴の気
持ちをあたしの方に向けさせることか。それとも自分の思わぬ寂しさを兄貴に救って欲し
くてベッドに入ることか。


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