241:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/10/02(火) 00:07:16.12 ID:HzCbppwJo
皮肉なことに、兄貴を救おうと決心しイケヤマと別れ兄貴に気に入られるために自分の
外見や話し方や行動パターンまで兄貴好みに変えて、そしてその演技を続けているうちに
あたしは以前兄貴やママに感じていたような苛立ちを全く感じなくなっていたのだ。
兄貴と仲直りして家族で団欒することがこんなにも心の平穏をもたらすなんて、これま
では考えたことすらなかった。奈緒に負けまいと考えて悲壮な覚悟で始めたこの演技は、
まず最初にあたしの心を穏やかに安定させてしまった。
それでも奈緒に勝って兄貴を救うにためは、自分が始めてしまったこの演技を続けるし
かないことはわかっていた。
兄貴と一晩一緒に寝たくらいならまだ心の揺らぎは自制して抑えることができる。
あたしは有希のことを考えた。人懐こく疑うことを知らず、この世の中には純粋な悪意
が存在するかもしれないなんて考えたこともないだろう奈緒の親友。
認めたくないけどこの同い年の女の子と過ごした一時間はすごく楽しかったのだ。こん
な状況ではなくて普通に友だちになれたらどんなにか幸せだっただろうと思ったくらいに。
今日は有希とピザとケーキを二人で分け合って食べた。飽きれている様子の兄貴には構
わず携帯の待ち受け画面自慢を二人で繰り広げた。お互いを呼び捨てで呼ぶことにした。
これまでのあたしの友だちに比べて、富士峰の箱入りのお嬢様なんて付き合っても面白
くないだろうとあたしは決め込んでいたのだったのだけど、実際に話してみると有希はい
い子だしあたしとは気が合った。その有希をあたしは奈緒に対抗するための手駒として扱
おうとしている。
それでもあたしは迷わずにもっと真面目にならなければいけなかった。
冷静に冷酷に行動しなくてはいけない。自分の心の平穏を求めているようでは兄貴は救
えない。兄貴が幸せそうなことはいいことだけど、あたしまでそれに便乗してはいけない
のだ。
万一兄貴に知られたらそれこそ終生絶交されてもしかたのないくらいのことを仕掛けよ
うとしているということを忘れてはいけない。
もっと冷静に冷酷に。
それでもあたしは最低でも有希のことを傷つけずに済むかもしれない方法方があること
に気がついてはいた。
どうやら有希は本気で自分の親友の奈緒の彼氏、うちの兄貴のことが気になっているら
しい。それなら兄貴と有希の仲をもっと公然と応援すればいいのだ。性格は多分奈緒の方
が兄貴の好みかもしれないけど、少なくとも有希の外見は兄貴の好みのはずだ。
付け焼刃で始めたあたしのなんちゃって清純さとは違って、有希のお嬢様度は筋金入り
の本物だった。奈緒にも負けないくらいに。
作戦の手直しをしてあたしに振り向かせるはずだった兄貴を有希に譲ること。それは仲
良くなった有希への贈り物になるだろう。
・・・・・・・そう考えた時、再びあたしの胸の奥がずきりと痛んだ。あたしは兄貴を、そし
てあたしの唯一の居場所であるこの家庭を守りたいだけだ。だから兄貴を有希に譲ろうと
考えたくらいのことであたしの胸が痛むのは奇妙なことだった。
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