266:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/10/04(木) 23:28:03.77 ID:tJhIMvBio
「別に父さんが書いた記事だからってこだわる気はないけどさ。ユキさんだって単なる趣
味でピアノやってるわけじゃないんでしょ。都大会で二位入賞とか感情表現ではナオちゃ
んより将来期待できるとまで言われてるんだし」
「あたしは別に・・・・・・ピアニストになろうなんて思っていないもの」
「じゃあ君は天才なんだ。ナオちゃんなんか問題にならないくらい」
「・・・・・・どういう意味?」
この時の僕は大人気なかったかもしれない。さっきから明るく清純で人懐こい女の子と
思い込んでいたユキから、厳しいことを言われていた僕はこんなつまらないことで憂さ晴
らしをする気になっていたのだった。
「君は天才なんでしょ。ナオちゃんみたいに必死に練習しなくても、僕と明日香なんかの
相手をしていいても本番では成績がいいみたいだしね」
「あたしのこと馬鹿にしてるの」
「馬鹿にしてるのは君の方だろ」
僕も思わずとげとげしい口調で言い返した。こんなことは初めてだった。ひどい嫌がら
せを明日香にされていた頃も、両親から出生の秘密を明かされた時でさえ、少なくとも誰
かの前では冷静さを失ったことはなかったのに。
何で僕はユキの言葉にだけこんなに素直に反応してしまったのだろう。今まで溜め込ん
でいたいろいろなことがユキの言葉に触発されて一気に迸り出てしまったみたいだった。
「ナオトさんのこと、馬鹿になんてしてなんていないよ」
さっきまでの勢いはもうなかった。ユキは途切れ途切れにようやく言葉を口からひねり
出しているみたいだ。
「じゃあ何で」
「あたしね」
ユキは少し寂しそうに笑った。「明日香にばれちゃった」
「・・・・・・うん」
「だけど何で明日香にはわかっちゃったのかなあ」
「何がばれたの?」
「好きだから」
「え」
「あたしナオトさんのこと好きだから」
ユキは僕を見てはっきりとした口調でそう言った。
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