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276:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/10/06(土) 22:55:48.91 ID:XUDIxlOTo

 目的の駅に降りた瞬間から行列が始まっていた。学生のバイトのような警備員のアナウ
ンスの声ががあちこちで響いているし、周囲には着飾った集団が楽しそうに笑いさざめく
声であふれている。家を出るときまではハイテンションで僕を引っ張っていた明日香は周
りの熱気に当てられたように大人しく僕の腕に掴まったままで、いつもよりだいぶ言葉数
が少なかった。

 それだけ周囲は賑やかだったのだけど一時間ほどで神社の鳥居をくぐると、周囲には何
か賑わいの中でも尊厳な雰囲気が漂っていた。神社の中は果てしなく続く提灯の列にぼん
やりと照らされていて、それははしゃいでいる人々の声を飲み込んで何か騒音の中の不思
議な静謐を感じさせた。

「初めて来たけど結構いい雰囲気だね」

 妹が幻想的な提灯の列に目を奪われながら呟いた。

「まあ、大晦日の夜にお参りする習慣なんてうちにはなかったしな」

「それはお兄ちゃんだけでしょ。あたしはパパやママと近所の神社に行ったことあるよ。
朝早く美容院で着付けもしてもらって」

「僕はおまえの着物姿何か見たことないぞ」

「あたしなんか見ようとしていなかったからでしょ」

「そうじゃなくて本当に見たことないんだって」

「そ。あたしの着物姿に興味なんかないくせに」
 明日香が笑った。「それにしてもこれって何時間くらい並んでれば参拝できるのかな」

「さあ。見当もつかないや」

 結局お賽銭を投げて参拝しおみくじを引くまでにそれから三時間くらいかかった。もう
夜中の二時過ぎだ。

「帰る?」

 一応予定の行動を消化したので僕は明日香に聞いてみた。

「やだ」

 思ったとおりの答えが明日香から帰ってきた。明日香にとってはまだ物足りないらしい。

「今日はお店だって二十四時間営業してるよ、きっと。ファミレスとかに寄って行こう」

 僕もまだここの雰囲気に当てられていたし、こんな日に両親が不在で僕なんかと二人で
一緒に過ごすしかなかった明日香のことを考えるとそれを無下に退けるわけにもいかなか
った。

「じゃあ、ファミレスに行くだけ行ってみるか?」

「うん」

 嬉しそうに明日香が言った。

「でも、また並ぶと思うけどな」

「いいよ。それでも」

明日香は嬉しそうに僕の腕にしがみついた。


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