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307:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/10/11(木) 00:13:52.12 ID:hMF93hg2o

「ナオト。今帰りか? って明日香ちゃんも来ていたんだ」

 兄友と女さんが僕たちの背後に並んで立っていた。

「珍しいじゃん。おまえが明日香ちゃんと一緒なんてよ」

 兄友と女さんの視線が申し合わせたように握りあっている僕と明日香の手に向けられた。

「今日はずいぶん仲いいのな」

 兄友が戸惑ったように言った。

「ま、まあ、兄妹だもんね。それよか明日香ちゃんってナオト君の妹だったのね。あたし
たちこの間まで全然知らなかったよ」

 女さんが取り繕うように笑ったけどその笑いは不自然なものだった。

「・・・・・・どうも」

 明日香が言ったけどその声にはついさっきの柔らかな様子は全く消え去っていた。むし
ろ明日香の声には女さんに対する敵意のような感情が感じ取れた。

「君たちも帰るところ?」

「ああ。カラオケでも行こうかって話してたんだけど。よかったら一緒に行かね?」

「悪い。僕たちこれから行くところがあるから」

「そうか。まあ急に誘ったって無理だよな。じゃあまた明日な」

「うん、また明日」

 相変わらず女さんを敵意を持って睨んでいるような表情の明日香を促して僕たちは歩き
出した。

「どうしたんだよ」

「お兄ちゃん。そっちじゃないよ」

 明日香は僕の質問には答えずに先に立って僕の手を引いて、自宅方面への下りホームで
はなく反対側の上りホームへのエスカレーターの方に向かって行った。

「・・・・・・どこに行くんだ」

 僕は思わず震え声が出そうになるのを必死に抑えて言った。自宅と反対方向に向かうと
知っただけでも動揺を感じる。それにこの方向だと一駅先には富士峰女学院がある。明日
香が僕を振り返った。

「叔母さんのところに行こう。お兄ちゃんももうそろそろ知らないといけないと思う」

 このときの明日香は僕の妹というより頼りになる姉のようだった。

「知るって何を」

「いろいいろと。このまま目をつぶって耳を塞いでいてもお兄ちゃんの不安はなくならな
いと思うの。ちょっと辛いかもしれないけど、そろそろ昔のことを思い出した方がいい」

「・・・・・・どういう意味? 昔のことなんか聞いたって今回のことは何も変わらないだろ」

「昔の奈緒のこと、お兄ちゃんの本当の妹のこと思い出せる?」

 思い出せるどころか僕には妹がいたことさえ記憶になかったのだ。

「叔母さんももう知っておいた方が、そして思い出せるようなら思い出したほうがいいっ
て言ってた」

 僕は再び得体の知れない不安におびえた。明日香が僕の手を握っている手に力を込めた。

「大丈夫。何があってもこの先ずっとあたしはお兄ちゃんと一緒にいるから」

 僕は明日香を見た。少なくともこれは罠じゃない。明日香を信じよう。

「わかった」

 上りの急行電車がホームに滑り込んできた。


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