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309:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/10/11(木) 00:15:53.47 ID:hMF93hg2o

 目をつぶってもどういうわけか視界には電車の床がぐるぐる回っているままだった。そ
して耳には叔母さんの低い声が同じフレーズをループして延々と繰り返されている。何度
も聞いているうちにそのフレーズは意味を失い、ただ不快なだけの雑音に変わっていった。

 とりあえず吐けば楽になるかもしれない。僕がそう思ったとき、突然視界が閉じ耳がふ
さがれたように感じた。フラッシュバックがおさまっていったのだ。

 不快な視覚と聴覚が消失した替わりに唇を覆っている湿った感触が頭を占めた。吐き気
もおさまっていく。

 僕は妹にキスされたままで妹の小柄な体を抱きしめた。明日香がぼくの口から自分の口
を離した。

「大丈夫?」

「・・・・・・うん」

 僕は覆いかぶさっている妹の体ごと自分の体を起こした。

「悪い」

「気にしなくていいよ。お兄ちゃんのことはあたしが守るから」

 さっきまでの不快感と痛みが嘘のようにおさまっていた。明日香は僕の額を濡らしてい
る君の悪い汗をハンカチで拭いてくれた。明日香に拭かれている顔が気持ちよかった。

 ようやく周囲の視線を気にすることができた僕は赤くなって妹から体を離そうとしたけ
ど、明日香はそれを許さなかった。

「もう少しあたしのそばにいた方がいいよ」

 明日香は僕を自分の方に抱き寄せるような仕草をした。

「お二人とも大丈夫?」

 そのとき、向かいに座っていた老婦人が僕たちを心配そうに眺めて声をかけてくれた。

「はい。もう大丈夫です。ありがとうございます」

 明日香が老婦人にお礼を言った。

「発作とかなの? 車掌さんを呼びましょうか」

「いえ、次の駅で降りますし本当に平気ですから」

 電車が駅に着いた。この駅に来たのは初詣のとき以来だ。

「お兄ちゃん立てる?」

「大丈夫だと思う」

 僕は明日香に抱かれながら立ち上がって、開いたドアからホームに降り立った。

「気をつけてね」

 老婦人が声をかけてくれた。


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