323:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/10/12(金) 00:29:28.65 ID:s/mXof6Yo
「結局、家庭裁判所の調停員の出した調停内容は、お互いに一人づつ子どもを引き取ると
いうことだった。付帯条件としてお互いに引き取れなかった子どもに一年間で二回以内に
面会できることっていうことになっていたけど」
ここで叔母さんは今まで以上にためらいを見せた。
「ここから先は話していいのか正直迷ってる。明日香にも話したことないし」
「全部話して。ここまで来た以上」
明日香がそう言い僕もうなずいた。
「わかった。でもこの先はつらい話だよ」
叔母さんは僕と明日香を交互に眺めた。そしてフォークを置いてため息をそっと押し殺
して話を続けた。
「結城さんと奥さんはその内容に同意した。調停が成立したということね。そして奈緒人
を結城さんが、奈緒ちゃんを奥さんが引き取ることになった。結城さんにとっては不本意
だったと思うけど、親権に関しては裁判を起こしても母親が有利になる傾向があるって弁
護士に言われて最後には納得したみたい。姉さんと早く結婚したいっていう気持ちも手伝
ったんじゃないかと思う」
「その結論を結城さんから聞かされた次の日、その日にはあんたの母親が奈緒ちゃんを引
き取りに来る予定だったんだけど」
「あんたと奈緒ちゃんはその日の朝、預けられていた結城さんの実家から逃げ出したんだ
って。お互いに別れるのは嫌だって」
今まで叔母さんの説明してくれた情報量に圧倒され何の感慨も抱く暇がなかった僕の脳
裏に、このとき初めて封印されていたらしい記憶が蘇った。
『パパもママもいらないよ。僕は奈緒と二人でずっと一緒に生きるんだ。それでいいよ
な? 奈緒』
『うん。ママなんか大嫌い。お兄ちゃんがいいよ。お兄ちゃんだけでいいよ』
泣きながらそう言って僕にしがみつく奈緒。僕は奈緒の手を引いて祖父母の家から脱走
したのだった。
その結末はよく覚えていない。でも今にして思えばどこかで大人たちに掴まって、僕は
奈緒と引き剥がされたのだ。この間偶然に再会するまで。
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