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359:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/10/20(土) 00:01:52.55 ID:qeBzAYhpo

「うん。本当だよ」

 どんなに辛くてもここで誤魔化してしまったら意味がない。明日香や叔母さんは僕はも
うナオとは会わない方がいいと言った。

 僕は二人の言葉に従ったけど、僕が大晦日の夜以来これまでナオに連絡しなかったのは、
二人が心配してくれたように僕自身がこれ以上傷付くことを恐れたからではない。

 このままナオと付き合っていたら、いつか傷付くことになるのはナオだった。好きにな
って初めて付き合った相手が実の兄だということを知ったら、ナオは僕と同じく精神を病
むほどのショックを受けるだろう。

「あたしピアノをやめます。そしたら毎日ナオトさんと会えるようになりますけど、そう
したらあたしのこと嫌いにならないでいてくれますか」

 ナオが装っていた平静さは既に崩れてしまっていた。ナオの両目に涙が浮かんでいる。

「そんなことできるわけないでしょ。将来を期待されている君が突然ピアノを止めるなん
て」

「できますよ。それでナオトさんがあたしと別れないでくれるなら、今日からもう二度と
ピアノは弾きません」

「・・・・・・もうこういう話はやめよう」

 ナオだけではない。僕ももう泣きそうな気持ちだった」

「あたしのこと、どうして嫌いになったんですか? ピアノばかり練習していてナオトさ
んと冬休みに会わなかったからじゃないんですか」

 ナオが縋りつくような目で僕を見上げた。

「そんなんじゃないよ」

「じゃあせめて何であたしのことを嫌いになったのか教えてください。このままではあた
し、どうしていいのかわからない。もう何も考えられない」

 ついにナオは泣き出した。

 結局こうなるのだ。

 でも自分が僕の妹だとわかるよりも、理由もわからず不誠実な初恋の相手にひどく振ら
れた方がまだましだろう。失恋の痛みはいつかは癒える。それに僕とは違って彼女には次
の恋の相手にはこと欠かないだろうし。

 僕はそう考えようとしたけど、目の前で泣いているナオの姿を見ているとだんだん息苦
しい気分になった。目の前がぼやけてくる。今目の前で泣いているナオの姿が、最近思い
出した過去のイメージに重なっていった。



『パパもママもいらないよ。僕は奈緒と二人でずっと一緒に生きるんだ。それでいいよ
な? 奈緒』

『うん。ママなんか大嫌い。お兄ちゃんがいいよ。お兄ちゃんだけでいいよ』



 泣きながらそう言って僕にしがみつく奈緒。それはナオじゃなくて奈緒だ。

 目の前で泣いているのは、母親に放置されて辛い思いをした挙句、大人たちの都合で僕
と二度と会えないかもしれないことを知ったあの悲しそうな表情の奈緒だった。そして僕は
そのとき奈緒を救えなかった。

 その僕が再び奈緒を傷つけることになったのだ。


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