376:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/10/21(日) 23:10:34.11 ID:i463RUoMo
清潔で白い廊下を歩いていくとやけに足音が大きく響いた。廊下の窓からは冬の午後の
陰鬱な曇り空が四角く切り取られて見える。
救急病棟の待合室で僕は叔母さんの姿を見つけて思わず駆け寄った。
「ああ奈緒人。来たのか」
叔母さんはいつもどおりに僕を呼んでくれたけど、その表情は暗かった。
「明日香は、明日香の具合はどうなの」
「外傷とそれに伴う精神的なショックだって」
叔母はそこで少しためらった。
「命に別状はないよ。今は寝てるから会えないけど」
「・・・・・・いったい明日香に何があったの?」
「奈緒人には教えないわけにはいかないか。明日香はね」
叔母が俯いた。叔母の目に涙が浮かんだ。
「昨日の夜、知り合いの男の部屋に連れ込まれて乱暴されそうになったんだって」
目の前が暗くなった。
本当の妹との再会に浮かれて明日香のことを僕は忘れていたのだ。つらかった時期にあ
んなに明日香に頼りきっていた僕なのに。僕に黙って自分の友人関係を壊してまで僕のこ
とを救おうとしてくれた明日香が、夜の街に飛び出して行ったのに僕は今日今まで明日香
のことを思い出しすらしなかったのだ。
「明日香が抵抗したんで犯人の男は明日香に言うことを聞かそうと手をあげたらしい。偶
然、別の明日香の知り合いの男がそのアパートを訪ねてきて、明日香を襲った相手を止
めたんだって」
「・・・・・・明日香の容態はどうなの?」
「外傷はたいしたことはないみたい。抵抗したのと知り合いの男が間に入ってくれたんで、
その・・・・・・性的な暴行は受けなくて済んだんだけど、精神的なショックの方が大きいみた
いだ。明日香が目を覚ませばもっと詳しくわかると思う」
「明日香に乱暴しようとした奴はどうなったの」
そいつを殺してやる。精神的に不安定になっていたのかもしれないけど、僕はそのとき
は本気でそう思った。きっとあの金髪ピアスの男だ。確かイケヤマとかっていう名前の。
「助けてくれた子が警察と救急車を呼んでくれてね。警察が来るまで犯人の男が逃げない
よう取り押さえてくれてたの。犯人は現行犯逮捕。助けた子も参考人として警察に呼ばれ
てるよ」
何で夜中に飛び出して行った明日香をすぐに追い駆けなかったのだろう。あの時の僕は
確かに混乱していた。明日香からは泣き顔で告白のようなことをされ、その直後に冷たい
表情のユキに責められもした。そのこともあって、ユキが帰ったあとは奈緒のことで頭が
一杯で明日香のことまで気が回らなかったのだ。
それに明日香が夜出歩いていることに慣れてしまっていたこともある。
僕は明日香が夜遊びをしていることを当然ながら知っていた。そして明日香が夜遅くな
るのは両親が不在か帰宅が遅くなるとわかっている夜に限られていた。だから僕たちの両
親は明日香の外見や成績を憂うことはあっても、中学生の明日香の夜遊びには気がついて
はいなかったのだ。
そのこと自体だって僕の責任なのだ。僕は明日香とトラブルを起こすのが嫌だったから、
明日香の夜遊びを注意することも、それを両親に言いつけることもしなかった。両親が明
日香の夜遊びを知ったらいくら子どもたちには寛容な父さんも母さんも明日香に注意して
いただろう。
「父さんたちは?」
「こちらに向かってる。もう来るでしょ」
そのとき救急治療室の引き戸が開いて中から白衣の一団が姿を現した。
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