451:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/11/02(金) 23:04:20.73 ID:2dnAe72Fo
あれから十年経った。結局結城さんは奈緒ちゃんを引き取ることはできなかったのだけ
ど、奈緒人だけは結城さんと姉さんの新しい家庭で明日香と一緒に兄妹として育った。
あれからあたしの結城さんへの恋はあたしの心の底に深く隠されていて、あたしは誰に
もそのことを悟られなかった自信があった。
再婚しても姉さんは仕事を止めなかったので、前ほどではないけどあたしは大学を卒業
するまで引き続き明日香の面倒をみた。あたしは当然、新たに姉さんたちの家族の一員と
なった奈緒人の面倒も一緒にみようとしたのだけど、奈緒人は明日香とは異なり全く手の
かからない子どもだった。
奈緒と二人で脱走する途中で保護されて、結局奈緒ちゃんとつらい別れを経験した奈緒
人は、その後は一度もあたしに奈緒ちゃんの名前を出すことはなかった。まるで記憶から
すっぽりとその部分が欠落したように。
あたしは先輩とは何の進展もなく、高校時代に夢想したような充実した大学生活を送る
ことなく大学を卒業した。
もちろん演奏家になることもなかった。それでも運がよかったのだろう。あたしは大手
の出版社に入社した。最初は自社で出版している雑誌の広告を取る営業の仕事についた。
その後に雑誌の販促を担当する営業企画の仕事を経て、あたしはやっと希望し続けていた
雑誌の編集部に編集者として配属されることができた。本当は週刊誌で報道の仕事を希望
していたのだけど、結局配属されたのは女子高校生をターゲットにしたファッション雑誌
の編集部だった。
この頃になるとさすがに仕事が忙しくなってきたあたしは、以前のように明日香や奈緒
人の世話をすることもなくなっていた。
明日香は昔と変わらずあたしを慕っていてくれたけど、この頃には明日香と奈緒人との
仲は最悪の関係になってしまったようだった。あたしは仕事の合間を縫ってこの二人とな
るべく会うようにしたのだけど、そういうときでも明日香は全く奈緒人に話しかけること
すらしなかったのだ。
そのせいかはわからないけど奈緒人は内省的な性格の男の子になっていた。口数も少な
いし趣味もインドア系のものばかりだったらしい。でもそんな彼にもあたしは好かれてい
る自信はあった。奈緒人は遠慮がちにだけどあたしに甘えてくれることすらあった。
あたしは時折奈緒人があたしに向ける視線にどきっとすることがあった。そしてその視
線は結城さんのそれにそっくりだった。
成長した奈緒人に対して、あたしは良い叔母さん的な態度で接するように努めたけど、
ときおり彼の視線に狼狽していることがあり、それはあたしを悩ませた。
きっとあたしが三十近くまで彼氏すら出来たことがなく、処女ですらあったからなのか
もしれない。こんな叔母さんが高校生の甥っ子である奈緒人の視線にときめくことがある
なんて誰にも知られる訳にはいかない。
・・・・・・退院した明日香は、今日奈緒人があたしに異性としての好意を抱いているという
いうようなことを匂わした。あたしは胸の動悸を必死で抑えて明日香の言葉の意味に気が
つかないふりをした。
追い討ちをかけるように明日香は結城さんへのあたしの好意について質問したのだ。結
局何も言葉が出てこなかったあたしは、二人を自宅に送ってから逃げるように車を出した。
そうして二人と別れて車を運転して社に戻り途中でも、そのときの明日香の言葉が繰り
返し胸の中再生されていた。
『お兄ちゃんはね、叔母さんのこと』
『違うのよ。ねえ叔母さん、聞いて聞いて。お兄ちゃんって叔母さんのこと』
あのときあたしは何で顔を赤くするほど明日香のその言葉にうろたえたのだろう。いっ
たい三十歳にもなるあたしは何を期待したのだろうか。まるで高校生の女の子のように取
り乱しながら。
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