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596:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/11/21(水) 23:29:15.28 ID:lZg7FiiSo

 もう一つは奈緒人の性格上の問題だった。自己防衛的な反応によって辛い記憶を失って
いた奈緒人だけど、彼にとっての辛い思いは新しい家族と暮らすようになっても続いてい
た。

 それは明日香の、奈緒人に向けられた極端な敵意だった。あたしは明日香の行動を逐一
結城さんから聞かされていた。結城さんはどういうわけかあたしが奈緒人の一番の理解者
で味方だと信じていたから、姉さんでさえあたしには話さないようなことでも隠し立てせ
ず話をしてくれたのだ。

「最近、明日香が奈緒人のことを嫌っているんだよね」

 結城さんはあるとき姉さんが不在の自宅で、明日香と奈緒人の夕食の支度をしに来てい
たあたしに言ったことがあった。二階にいる子どもたちに聞かれないようにひそひそ声で。

 結城さんの声がよく聞き取れなかったあたしは、しかたなく結城さんの体に密着するよ
うにしながら話を聞き取らなければいけなかった。それはまだ結城さんへの成就しない恋
心を抱いてたあたしには辛いことだった。

「明日香の言うには奈緒人が明日香の着替えを覗こうとするとか、自分の体を嫌らしい目
で見るとか、何気なく触ろうとするとか、まあそういうことを奈緒人が自分にしてくるっ
て明日香は言うんだ」

「姉さんは知っているの?」

 あたしは結城さんの側にいることから生じていた胸の高鳴りを押さえつけながら冷静に
聞こえるように結城さんに聞いた。

「ああ。あいつは年頃の男の子ならそいうことがあっても不思議じゃないって言ってるよ。
何も本気で明日香に手を出そうとするわけがないし、むしろ明日香の思い過ごしだって。
玲子ちゃんはどう思う?」

 音楽雑誌の業界では名前の知れた結城さんがこんなことでうろたえているのを見て、あ
たしは彼のことを可愛らしく感じた。胸のどきどきも収まってきていたし。

「どう思うも何も悪いのは全部明日香だよ」
 あたしははっきりと言った。「わざわざ自分の部屋のドアを開けて見せ付けるように着
替えたり、シャワーの後に下着姿で奈緒人君の前をうろうろしたりしているのは明日香の
方じゃない」

「じゃあ何で明日香は一々奈緒人のことを僕たちに言いつけるようなことをするのかな」

「明日香も可哀そうなんだよ。姉さんが世話できなくてあたしが育てたみたいなものだし。
やっとできたちゃんとしたパパとママのことを奈緒人に取られそうで恐いんでしょ」

 誰が見たってそう見える。それと明日香自身は気づいていないかもしれないけど、自分
と本気で親しくしてくれない奈緒人への苛立ちもあるのだろう。そしてそれは奈緒ちゃん
への嫉妬心かもしれなかった。


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