607:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/11/22(木) 22:25:41.72 ID:AxDCb+N8o
有希が去っていった後、目の前には手をつけてさえいない料理がテーブルの上に並んで
いた。もったいないし店の人にも変に思われるかもしれない。僕は自分の目の前に置かれ
た冷めたパスタを一口だけ口にしたけどすぐに諦めた。
有希の言うとおりだった。明日香は有希の恋心を僕から奈緒を離すために利用したのだ。
そのときの明日香は僕に対して恋心なんて感じていなかったはずだから、有希を利用した
といってもそれは有希が僕と付き合うようになってもいいと考えての行動だったろう。つ
まりある意味では有希を応援したとも言える。
でも結果がこうなってしまえば今さら何を言っても有希は納得しないだろう。僕と明日
香は結ばれたのだ。決して明日香の仕掛けた手段によって成就した関係ではない。それで
も有希の視点から見れば明日香の一人勝だというふうに思われても無理はない。
僕はもう半ば有希と明日香を仲直りさせることは諦めていた。それに有希には女帝疑惑
がある。本当に有希が中学生離れした恐い女なのかどうかは定かではないけど、明日香の
身の安全を考えると危険は冒せない。そう考えると有希が明日香と仲直りせずこのまま疎
遠になった方が明日香にとっては安全なのかもしれなかった。
そう考えると奈緒に会いに来た僕は当初の目的を果たせなかったのだけど、有希に対し
ては期せずしてできることはしたような気がしてきた。有希に謝罪し、でも女帝かもしれ
ない有希と明日香をこれ以上関らせないこと。明日香が有希に直接謝罪すると言ったとき、
僕は彼女を止めた。そして一応はそのとき僕が考えていたことは達成できたのだ。
そのとき有希が最後に言い捨てて言った言葉が胸に浮かんだ。
「明日香のそういう手段を選ばないやり方が、奈緒ちゃんには向けられていないといい
ね」
僕と奈緒を別れさせようとしていた明日香は取れる手段は全て動員しただろう。そのこ
と自体には感謝していた僕だけど有希の言葉を聞くと胸騒ぎを感じた。
手段を選ばないということは、当時の明日香なら奈緒に対しても何らかの手を打ってい
たかもしれない。そしてそれが奈緒を直接的に傷つけるようなことだとしたら。
でも。
僕と明日香は結ばれたのだし、もう明日香には僕への隠しごとはないだろう。それに明
日香は奈緒のことを奈緒ちゃんと呼び出したのだ。奈緒が僕の大事な妹だと正しく認識し
たからだろう。その明日香が奈緒にひどいことを仕掛けているはずはない。
自分の彼女を信じよう。明日香はこれまでのところ、有希の件も含めて全てを僕に正直
に話してくれていた。奈緒の件は有希の思い過ごしか嫌がらせなのだ。
僕は席を立って勘定を済ませた。インフルエンザになったという奈緒のことも心配だけ
どさすがに命に別状はないだろう。それよりも明日香のところに帰ろう。きっと明日香も
僕の戻りが遅いと心配するだろう。
僕はファミレスを出ると足を早めてできたての恋人の元に急いで戻ろうとした。
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