708:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/12/05(水) 23:11:04.11 ID:Upuk+rYRo
雨は雪に変わっていた。傘もなく僕と叔母さんは手をつないだままマンションの外に出
た。
僕たちは雪に変わった天気の中を手を繋いだまま寄りそって、路駐している叔母さんの
車の方に歩いて行った。
叔母さんの車の側に若い男性が佇んでいた。彼は近づいてきた僕と叔母さんを驚いたよ
うに見た。僕たちが車の方に近づいていくと、彼は踵を返して足早に遠ざかって行った。
「年寄りの女が若い男と手を繋いでたんで驚いたのかな」
叔母さんが笑った。僕は叔母さんの手を離してその肩を抱き寄せた。このときの僕の行
動は叔母さんへの衝動からではなかった。今日だけはそうしなければいけないと思ったか
らだ。
「玲子叔母さんは年寄りなんかじゃないよ。すごく綺麗だよ」
「よしてよ。あんたって意外と女の扱い上手だったのね」
ここ最近の奈緒や明日香との仲を言外にからかわれている気がして僕は少しだけ心の奥
に痛みを感じ、抱き寄せた叔母さんの肩から手を離した。叔母さんは狼狽したように僕を
見上げた。
「奈緒人違うの。あたし、そんなつもりじゃなくて」
「ごめん」
遠ざかって行った男が角を曲がると周囲には誰もいなくなった。何の音もせずにただ粉
雪だけが降りしきっている。
「・・・・・・誰もいないね」
叔母さんが僕の両肩に手を置いて少し爪先立つようにして僕にキスした。
車内は冷え切っていた。叔母さんは運転席に収まると手を伸ばして助手席のドアを開け
た。
「スタッドレスにしといてよかった」
叔母さんがチョークを思い切り引いてエンジンをかけた。
いつもと違って叔母さんの運転はおとなしかった。それに路面には既に薄っすらと雪が
積もりはじめていた。それでも突然の雪を避けたのか道路は空いていた。
「どこ行きたい?」
「どこでもいい」
「じゃあちょっと遠出して海を見に行くか。冬の江の島も恋人同士にはいい場所だよ」
叔母さんが僕に甘えるような表情で微笑んだ。僕は黙ってシフトレバーの上にある叔母
さんの小さな手に自分の手を重ねた。
「・・・・・・危ないよ」
叔母さんが小さく言った。
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