過去ログ - ビッチ
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720:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/12/15(土) 23:00:07.76 ID:qyGk20Fno

 次に僕が彼女に出合ったのは、階段教室で一般教養の美術史の講義に出席していたとき
だった。その講義は出席票に名前を書いて提出し課題のレポートさえ提出してさえいれば、
その出来や講義時の態度に関わらず単位が取れると評判だったので広い階段教室は一二年
の学生で溢れていた。美術になんかに興味はない僕はさっさと出席票を書いて教室の後ろ
の出口から姿を消そうと考えていた。

 講義が始まってしばらくすると出席票が僕の座っている列に回ってきた。自分の名前を
出席票に書いて隣に座っている女の子に回して、僕はそのまま席を立とうとした。

 そのとき、僕は彼女に声をかけられた。

「こんにちは結城先輩」

 出席票を受け取った隣の女の子はサークルの新入生の夏目さんだったのだ。

 驚いて大声を出すところだったけど今は講義中だった。僕はとりあえず席に座りなおし
た。

「ごめんなさい、わからないですよね。サークルの新歓コンパで先輩を見かけました。一
年の夏目といいます」

 講義中なので声をひそめるように彼女が言った。

「知ってるよ。あそこで見かけたし・・・・・・でも何で僕の名前を?」

「先輩に教えてもらいました」

 彼女は出席票に女性らしい綺麗な字で自分の名前を記入しながらあっさりと言った。僕
はその署名を眺めた。夏目 麻季というのが彼女の名前だった。彼女は出席票を隣の学生
に渡すともう話は終ったとでもいうように美術史のテキストに目を落としてしまった。

「じゃあね」

 彼女に無視された形となった僕はつぶやくような小さな声で講義に集中しだした彼女に
声をかけて席を立った。もう返事はないだろうと思っていた僕にとって意外なことに、夏
目さんがテキストから顔を上げて怪訝そうに僕を見上げた。

「講義聞かないんですか?」

「うん。出席も取ったしお腹も空いたし、サボって学食行くわ」

 夏目さんはそれを聞いて小さく笑った。

「結城先輩ってもっと真面目な人かと思ってました」

「・・・・・・そんなことないよ」

 僕は思わず夏目さんの眩しい笑顔に見とれてしまった。中途半端に立ったままで。

「でも先輩格好いいですね。年上の男の人の余裕を感じました」
 彼女がどこまで真面目に言っているのか僕にはわからなかったけど、彼女の言葉は何か
を僕に期待させ、そしてひどく落ち着かない気分にさせた。

「じゃあ、失礼します」

 くすっと笑って再び夏目さんはテキストに視線を落としてしまった。


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