769:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/12/23(日) 22:59:34.15 ID:tH/dTWjVo
「鈴木さん、どうしたの」
僕は驚いて彼女に声をかけた。周囲の客の視線が刺さるようだった。これでは別れ話を
持ちかけている浮気男と振られた女のカップルのようじゃないか。
「・・・・・・ごめんなさい」
「いや、いいけど。大丈夫?」
それには答えずに彼女が話し出した。
「音楽之友からの取材メールを見たとき、あたしびっくりしました。最後に結城博人って
書いてあったし。あたしそれが麻季の旦那さんのことだってすぐに気がついたんです。こ
んな偶然があるんだなあって」
「ごめん。よくわからないんだけど」
「あたし、ずっと先輩に連絡を取ろうとしてたんです。麻季の携帯の番号しか知らなくて、
でも麻季には連絡できないし」
「うん」
「だから仕事で先輩から連絡を受けたときチャンスだと思いました。これで先輩とお話で
きるって」
彼女はコミュ障の麻季には似合いの親友なのかもしれない。さっきから随分彼女の話を
聞いているのだけど、彼女が何を言いたいのか少しも理解できない。
「あたし、結婚してるんです」
それはそうだろう。旧姓太田と言っていたし、それに左手の薬指には細いリングが光っ
ている。
「あたしいけないとは思ったんですけど。でも最近旦那の様子が変だし不安だったんで旦
那の携帯を見ちゃったんです。そしたら旦那と麻季が浮気していて」
僕は凍りついた。麻季の浮気の話なんてとうに知っている。今はそれを克服しようと夫
婦ともに努力している最中だった。でも鈴木先輩は独身ではなかったのか。
「君・・・・・・横浜フィルのチェロのフォアシュピーラー、その鈴木先輩の奥さんなのか」
「・・・・・・はい」
彼女は俯いてそう答えた。
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