768:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/12/23(日) 22:57:20.85 ID:tH/dTWjVo
しばらく沈黙が続いた。こんな内容なら電話かメールで十分だろう。なぜ彼女はわざわ
ざ会って打ち合わせをしようと言ったのだろう。でも初対面の、しかもこちら側からお願
い事をしている身でそんなことを聞くわけにいかなかった。
「結城さんって音楽雑誌の編集者をされてたんですね」
突然彼女が言った。
「はい?」
「ごめんなさい。あたし、結婚前は旧姓が太田なんですけど、結城先輩と同じ大学で一つ
下の学年にいたんです」
何だそういうことか。
「ああ、それで」
「はい」
彼女は微笑んだ。
「先輩はあたしのこと知らないと思いますけど、あたしは先輩のことよく知っています」
「うん? 同じサークルでしたっけ」
「違います。あたし麻季の親友でしたから」
「そうなの? ごめん。全然わからなかった」
実際にはわからなったというより知らなかったという方が正しかった。大学の頃の麻季
には僕の知る限りでは本当に親しい友人は男女共にいなかったはずだ。何しろその頃の彼
女は筋金入りのコミュ障だった。外見の美しさや一見落ち着いて見える容姿や態度のせい
で取り巻きのような友人はいっぱいいたらしいけど。
「いえ。先輩とは直接お話したこともありませんし。でも麻季からはよく惚気られてまし
た。あの麻季がこれほど入れあげている男の人ってどんな人かなあってよく考えてました
よ」
「そうだったんだ。ごめん、あいつはあまり自分のこと喋らないから」
「結城先輩と麻季の結婚式にも参列させていただきました。麻季、綺麗だったなあ」
そのとき僕は帰宅して麻季に話してやれる話題ができてラッキーくらいに考えていた。
でも、どういうわけか彼女は俯いた。そして静かに泣き出した。
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