821:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/09(水) 23:14:58.45 ID:wSH5UfB0o
取材を終えていないため日本に滞在できるのはわずか三日間が限度だ。帰国便の機内で
僕は一月前に業務連絡で二日間だけ帰国したときのことを思い出した。あのとき編集部に
寄って用を済ませてから帰宅した僕に麻季は抱きつこうとしたけれど、その麻季を押しの
けるようにして奈緒が足にしがみついて来たのだった。麻季は少し驚いて身を引いたけど
すぐに笑顔を取り戻して僕たちを見守っていた。奈緒人は少し離れてその光景を見つめて
いたようだった。
そのときの家族の様子には少し違和感を感じたけど、すぐにいつもどおりの家族の団欒
が始まった。久し振りだったのでいつもより会話も華やかだったはずだ。わずか一月後に
こんなことになるような前兆はいくら思い返してもなかったと思う。麻季と子どもたちに
いったい何があったのか。いくら考えてもその答は出なかった。
その三日間でしなければいけないことはたくさんあった。帰国して編集部に連絡して断
りを入れてから僕は一度自宅のマンションに帰宅し、すぐに車に乗って児童相談所に向っ
た。相談所のケースワーカーさんから事情を聞いて実家に向った。途中に立ち寄った自宅
の床には小物や封を切られたレトルト食品の残骸などが散乱して異臭を放っていた。出張
前の綺麗に片付けられていた自宅の面影は全く残っていない。それまでに何度も麻季の携
帯に電話をしていたけれど僕の携帯は着信拒否されているようだった。
僕は混乱し怯えながらも半ば無意識に運転して実家に辿り着いた。実家のドアのチャイ
ムを鳴らすと、しばらくして警戒しているような声がどちら様ですかと聞いてきた。実家
で暮らしている妹の声だ。
「僕だけど」
「・・・・・・お兄ちゃん?」
「うん。開けてくれ」
ドアが開くと妹が顔を出した。
「よかった。お兄ちゃんが戻って来てくれて」
そのとき廊下の奥から奈緒人と奈緒が走り寄って来て僕にしがみつくように抱きついた。
「パパ」
二人は同時にそう言って泣き出した。僕はしゃがみこんで二人を抱き寄せながら傍らに
じっと立っている妹の方を見上げた。
「・・・・・・今は奈緒ちゃんたちを慰めてあげて。話は後で」
妹は涙をそっと払いながら低い声で言った。
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