過去ログ - 削板「久し振りだな、百合子！」 -SS速報VIP

過去ログ - 削板「久し振りだな、百合子！」

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609:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/05/06(月) 17:08:36.77 ID:h1le+xXXo
「何考えて悄気てンだか知らねェけど、この天気でそンな辛気くさい顔されてたまるかっつーの。」

彼女は本棚の前に立ったまま項垂れる少年の右頬を思い切り抓った。例えひ弱な少女でも勢い良く抓られればそれなりに痛い。少年は目が醒めるような気がした。

「これからの頑張りに期待するっつってるだろォが。それともあれか、過去のことぐちぐち言って今後も何にもできなくなるよォな腰抜けか、オマエは。」

「違う、けど。」

「けど、は要らねェ。はっきりしやがれ。」

「…違う。」

少年がはっきりと言うと少女は満足気な笑顔を見せて、かと思うと右手の杖を手放してこちらにがっしりと抱きついてきた。

「え、ちょ、ちょっと百合子、」

「さっきも言っただろォが。オマエは何にもしてなかったわけじゃねェだろ。」

胸の辺りにすっぽりと収まった彼女の頭がふるふると揺れる。そう言えば自分が風呂場に向かう前にはしっとり濡れていた髪は、短いからか今となってはほとんど乾いていた。

「ごめンな、オマエがいてくれたのに、あンな馬鹿なことして。俺は一人じゃなかったのに。」

「4年間、ずっと探しててくれて、ありがとう。」

自分の胸元にすっぽり頭を埋めながら彼女が呟いた言葉に、少年は何も返すことができなかった。再会してからというものごめんと謝られたことは何度かあったが、ありがとうと感謝されることはなかった気がした。

「もう、一人で勝手にどっか行ったりしねェから。」

「だから、ずっと捕まえててくれよな。」

「うん。」

少年はたまらなくなって、胸に顔を埋めたままの彼女を押し潰さんばかりに抱きしめた。彼女自身からもうどこにも行かないと言って貰えたのだから、これ以上に嬉しいことなんてあるだろうか。抱き潰された彼女は一瞬苦しそうに喘いだが、それでも少年の手を拒む様子はなかった。

「ずっと捕まえててやるから、覚悟しろよ。」

少年の胸から顔を上げた彼女の目が潤んでいたので、その眦を拭ってやった。

「お前何で泣いてるの。」

「オマエだってそうじゃン。」

「だって、嬉しいから。ずっと、お前と初めて会ったときからそれしか考えてなかったんだ、お前とずっと一緒にいたいって。」

「うン、そうだったよな。」

「俺もきっと、ずっとオマエと同じ気持ちだったよ。」

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